ZNRF1の仕組み解明、「神経突起の崩壊」知るうえで重要
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は11月16日、パーキンソン病・脳卒中・神経傷害など多様な神経疾患に共通する細胞内シグナルが、神経細胞の構造を壊すきっかけとして作用していることを、初めて明らかにしたと発表した。この研究はNCNP神経研究所疾病研究第5部の若月修二室長、荒木敏之部長らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
1990年代に行われた多くの研究によって、細胞が死ぬ際には、多くの場合、積極的に細胞を殺す細胞内反応メカニズムの活性化が必要であることが明らかとなった。一方、多くの神経疾患において、神経細胞の死に先立って起こる「神経突起の崩壊」は、細胞死とは別のメカニズムによって制御されていることが分かっていたものの、制御機構の詳細は不明だった。
同研究グループは、2011年に発表した研究において、軸索の損傷が起こると軸索内の骨組みを形成している「微小管」と呼ばれる構造たんぱく(細胞骨格)の安定性を制御するメカニズムが変化することによって神経突起構造崩壊が誘導されることを明らかにしていた。
このメカニズムにおいて、神経傷害後、AKTと呼ばれるリン酸化酵素を分解することによって細胞骨格崩壊のための細胞内反応を開始するZNRF1は、ほぼすべての神経細胞にいつも存在するたんぱくだが、神経傷害が起こると突如として軸索崩壊を引き起こす反応を開始することから、この仕組みを明らかにすることが「神経突起がなぜ壊れるのか」を知るうえで重要であると考えられていた。
神経軸索と神経細胞崩壊を引き起こすZNRF1蛋白の活性化
今回研究グループは、活性酸素が細胞内で情報伝達因子として作用することによってZNRF1を活性化すること、そしてZNRF1の活性化は細胞死と軸索崩壊の両方を引き起こすことを、マウスで作成した脳卒中、パーキンソン病、神経損傷のモデルにおいて示した。
ZNRF1はほぼ全ての神経細胞に恒常的に存在しているが、普段は不活性だ。今回の研究により、神経細胞に損傷やストレスなど病気の原因となるさまざまな刺激が加わると、神経細胞内に活性酸素が生じ、そのはたらきにより、上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor receptor:EGF)受容体と呼ばれる酵素によるZNRF1リン酸化がおこることによって、ZNRF1の働きが活性化することがわかったという。
活性酸素は、これまで、体内で産生されて老化を促進する分子として広く知られていたが、今回の研究は、神経細胞内の反応を調節するシグナル分子としての全く新しい活性酸素の役割を初めて明らかにした。また、ZNRF1蛋白が神経細胞へのストレス刺激に伴って軸索崩壊と細胞死の両方を開始させる機能を持っていることも初めて明らかにし
これらのことから、ZNRF1の機能を抑える薬を開発することで、パーキンソン病をはじめとする神経疾患の症状改善や病気の進行抑制につなげることができる可能性があるとしている。
なお、この研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Cell Biology」オンライン版に11月16日付で掲載されている。冊子版には後日掲載予定。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース