免疫細胞が自分自身を攻撃しないために必要な新たな仕組み
九州大学は11月5日、T細胞と呼ばれる白血球が、自分の身体を攻撃しない免疫寛容を獲得するために必要な新たな仕組みを発見したと発表した。この研究は、同大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、柳原豊史大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に、11月4日付で掲載されている。
画像はリリースより
免疫反応が本来攻撃しないはずの自己組織に向けられると、自己免疫疾患が発症すると言われている。この自己組織への攻撃をしないように白血球・T細胞を“教育”する場所が胸腺だが、どのような仕組みでこのような教育が行われているのか、解明されていなかった。
免疫寛容誘導に重要なAireタンパク質の発現が著しく低下
研究グループは、胸腺を形作りT細胞を教育する役割を持つ、胸腺上皮細胞に発現している「Jmjd6」というタンパク質に注目。胸腺上皮細胞における機能を調べるために、Jmjd6を発現しないように遺伝子操作したマウス(Jmjd6ノックアウトマウス)の胎児から胸腺を取り出し、胸腺のないヌードマウスに移植して解析。その結果、Jmjd6を欠損した胸腺を移植したヌードマウス(ヌードJmjd6欠損型)では、野生型の胸腺を移植したヌードマウスと同様に、身体のリンパ組織には分化したT細胞が出現したという。
しかし、ヌードJmjd6欠損型は胃や唾液腺、膵臓といった多臓器に炎症細胞が浸潤。さらにヌードJmjd6欠損型の血液中には、自己の組織に反応する自己抗体が存在しており、自己免疫疾患を発症してたという。詳しく解析すると、Jmjd6欠損した胸腺では、胸腺上皮細胞の成熟は野生型と変わらないものの、免疫寛容誘導に重要なAireタンパク質の発現が著しく低下していることを見出したとしている。
そのメカニズムを探索したところ、Jmjd6がないと、Aireのイントロン2が残存する傾向にある事が判明。このイントロン残存により、終止コドンが途中で出現するため、成熟したAireタンパク質ができないという。
現在でも、自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多い。しかし、今回の知見により、今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に、今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が、生体反応のさまざまな局面で明らかにされることが期待される。
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・九州大学 プレスリリース