産業や医療への利用を視野に、望まれていたタンパク質を大量合成する技術
科学技術振興機構(JST)は11月11日、同戦略的創造研究推進事業において、名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授(理化学研究所 伊藤ナノ医工学研究室 客員主管研究員)、阿部奈保子博士研究員らの研究グループが、ヒト培養細胞内で環状mRNAから、終わりのないタンパク質合成が起きることを見いだしたと発表した。この研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」オンライン速報版に11月10日付で公開された。
画像はリリースより
2013年に同研究グループは、原核生物である大腸菌のタンパク質合成系において、終止コドンを除いた環状mRNAを鋳型として用いたタンパク質合成反応について検討。その結果、通常の直鎖状mRNAと比較し、環状mRNAからは大量のタンパク質を合成できることを明らかにしており、産業や医療への利用を視野に、真核生物においてタンパク質を大量合成する技術の開発が望まれていた。
終わりのない回転式タンパク質合成は、原核生物・真核生物で普遍的な現象
今回、同研究グループは、mRNAからキャップ構造やポリA鎖を除き、さらに終止コドンを除いた環状mRNAを合成。それをヒト培養細胞内に導入したところ、環状の鋳型に沿って終わりなく続く回転式タンパク質合成反応が起こり、タンパク質を大量に合成できたという。真核細胞のシステムでは環状mRNA上における合成開始反応は通常起こりにくいと考えられているが、一度開始されれば無限に続く鋳型配列に沿って反応が続き、その結果大量のタンパク質を合成できたことが今回示された。
また、環状mRNAは直鎖状mRNAと比較して、生体内で分解されにくいことが知られており、この特性も長期的なタンパク質合成に有利に作用するという。これらの結果から「終わりのない回転式タンパク質合成」は、原核生物および真核生物に普遍的な現象であることが示された。
同手法は今後、真核生物のタンパク質合成開始のメカニズムの解明に役立つことが期待される。さらにコラーゲンや蜘蛛の糸などの反復配列があるタンパク質を大量合成して医療材料としたり、遺伝子治療に代わって生体内で安全にタンパク質を合成させる手法として、産業および医療応用への期待も高まる。
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・科学技術振興機構 プレスリリース