赤血球における酸素の輸送に重要な役割を担う「バンド3」の立体構造を解明
京都大学は11月6日、岩田想同大医学研究科教授、濱崎直孝長崎国際大学薬学部客員教授らが、ヒトの赤血球における酸素の輸送に重要な役割を担っている「band3」(バンド3)という膜タンパク質の立体構造を原子レベルで解析することに成功したと発表した。この研究成果は、米科学誌「Science」に11月6日付で掲載されている。
画像はリリースより
血液中に含まれる赤血球は、酸素を肺から体内に循環している。これまでの研究では、赤血球は血液中の二酸化炭素を取り込み、赤血球内で重炭酸イオンと水素イオンに分解し、赤血球内のpHを変化させることにより、ヘモグロビンに結合した酸素の放出を促すことが分かっていた。
赤血球の膜(赤血球膜)に存在する膜タンパク質のバンド3は、赤血球内で生成した重炭酸イオンを外に放出し、代わりに塩素イオンを取り込む「交換輸送」を担っており、赤血球が適切な量の酸素を組織へ供給するのに欠かせない役割を担っている。
遺伝性貧血などの疾患発症の仕組み解明に期待
研究グループは、抗体フラグメントを結晶化の促進因子として用いる独自技術により、ヒトのバンド3を結晶化することに成功。その立体構造を原子レベルで解明した。得られた立体構造は、赤血球膜を貫通する7本のヘリックスの束でドメインを構成し、2つのドメインが逆向きに繰り返す構造を持っていたという。
このような2つのドメイン構造は、アミノ酸配列はあまり似ていないものの、ウラシル輸送体の立体構造と似ていることが明らかになった。そこでバンド3とウラシル輸送体の立体構造を詳しく比較したところ、片方のドメイン(コアドメイン)が動くことで、バンド3は塩素イオンを取り込み、重炭酸イオンを放出することが示唆され、赤血球の疾患に関係する変異が、このコアドメインに集中して存在することも明らかになったとしている。
赤血球の酸素や二酸化炭素の運搬機構や遺伝性貧血などの血液疾患の解明がさらに進むことで、将来、バンド3の機能を制御するための薬剤の分子設計や人工血液の開発などにもつながることが期待される。
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・京都大学 研究成果