毎年4万人が新たに透析療法を導入する慢性腎臓病
新潟大学は11月4日、腎傷害性物質が腎臓に取り込まれ、慢性腎臓病を発症・進展させる際の「入り口」を司る分子として「メガリン」を同定したと発表した。これは、新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学寄附講座の斎藤亮彦特任教授、桑原頌治特任助教、細島康宏特任准教授らが、香川大学医学部薬理学講座の中野大介助教、西山成教授と共同で行った研究成果である。
画像はリリースより
2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の患者数の増加に伴って、慢性腎臓病を合併する患者が増加。現在日本には約1300万人の慢性腎臓病患者が存在し、そのうち約4万人が毎年透析療法に導入されている。
透析療法は患者の負担も大きく、また年間1兆円を越える医療費が投入されていることから、医療経済的にも負担が大きい。腎移植治療は、ドナー不足や免疫抑制薬の服用を続けなければならないなどの問題がある。さらに慢性腎臓病が進行すると、心臓や血管の病気にも罹りやすくなることも懸念される。しかし現在、慢性腎臓病の進行を食い止める抜本的な特効薬はない。
メガリンを標的にした薬剤の開発で、慢性腎臓病の悪化抑制に期待
今回、研究グループは、メタボリックシンドロームモデルマウスを用いた実験により、腎傷害性物質が腎臓の細胞に取り込まれ、慢性腎臓病を発症・進展させる際の「入り口」を司る分子を同定した。この分子はメガリンと呼ばれ、以前の研究で斎藤教授が構造を明らかにした受容体タンパク質であり、腎臓の近位尿細管という部位に発現。糸球体から濾過されるさまざまな物質を再吸収する働きに関わっている。糖尿病やメタボリックシンドロームなどでは、細胞毒性物質が血液中に蓄積し、それらが腎臓に作用して傷害を起こす可能性が想定されていた。
そこで斎藤教授らは、腎臓でメガリンの発現を約60%ノックアウトしたマウスを用いて、対照マウスとともに高脂肪食を与えてメタボリックシンドロームを起こしてみたところ、血糖値やコレステロール値、および体重などは両群のマウスで違いがなかったにもかかわらず、腎臓のメガリンの発現がノックアウトされた近位尿細管細胞では、傷害所見(リソソーム異常など)がほとんど起こらないことを発見。また、尿細管周囲の血管や糸球体の傷害までも軽減することが分かったという。
これらの研究成果により、腎臓におけるメガリンの発現を調節し、ネフロンの機能的な負担を軽減させる薬剤を開発することによって、慢性腎臓病の悪化を抑制することが期待される。またメガリンを介する腎傷害性物質の取り込みだけを選択的に抑制する方法を開発すれば、さらにその効率が上がる可能性があるとし、斎藤教授らは既にその研究に着手しているという。
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