薬物による症候治療と生活指導が主流のナルコレプシー治療
筑波大学は11月5日、オレキシン受容体作動薬の創出に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の長瀬博教授と、柳沢正史機構長・教授によるもの。研究成果は、米国化学会の発行する専門学術誌「Journal of Medicinal Chemistry」の注目すべき研究に選出され、10月号に掲載された。
画像はリリースより
研究グループは、神経ペプチドであるオレキシンとその受容体を1998年に発見し、これらが覚醒の促進と睡眠覚醒の安定化に重要な役割を果たすことを、1998~1999年に報告していた。その後、脳内オレキシンの欠乏がヒトにおいてもナルコレプシーの病因であることが判明していたという。
オレキシンとオレキシン受容体の発見以来、世界中で睡眠薬としてのオレキシン受容体拮抗薬の研究が進展し、多くの化合物が報告されてきた。昨年、米国Merck社の開発したオレキシン受容体拮抗薬「スボレキサント」 (商品名:ベルソムラ)が全く新しいタイプの不眠症治療薬として承認されている。
その一方で、オレキシン受容体作動薬は覚醒を促進しナルコレプシーに有効であることが示唆されていたにもかかわらず、未だ詳細な報告はなかった。ナルコレプシーの治療は薬物による症候治療と生活指導が主流であり、未だ根本治療法はないというのが現状だった。
病態モデルマウスで症状の改善を確認
研究グループは、25万種類を超える化合物の2型オレキシン受容体に対するハイスループット探索の結果、作動薬のシーズとなるいくつかのヒット化合物を見出した。この数少ないヒット化合物の構造の中でも、スルホンアミド構造を持つ化合物に注目し、その誘導体を2,000種類以上設計・合成して活性と薬理作用を比較することでポイントとなる構造要素を見いだしたという。
最終的に、EC50値 23nMでオレキシン2受容体を選択的に作動させる低分子化合物「YN-1055」(同論文化合物 26)に到達。しかし、この化合物は水溶性に乏しく、動物への投与が非常に困難であったため、更なる最適化を行うことで、水溶性を大きく向上させた「YNT-185・2塩酸塩」(同論文化合物 31、EC50値 28nM)を得ることに成功したとしている。
同研究グループが開発した薬物は、マウスの脳室内投与実験においても腹空内投与実験においても、覚醒時間の延長に効果があった。また、ナルコレプシーを人為的に発病させたマウス(病態モデルマウス)において、その症状の改善を確認したという。
これにより、低分子オレキシン受容体作動薬がナルコレプシー治療において有効であることが、世界で初めて証明された。研究グループは今後、睡眠疾患の治療に大きな希望が持てる成果だとしている。
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・筑波大学 プレスリリース