脳神経細胞の機能は遺伝的に決まるのか、環境や神経活動で決まるのか
京都大学は11月4日、同大大学院理学研究科の田川義晃講師、九州大学院医学研究院の大木研一教授、萩原賢太同大学院生らの研究グループが、視覚情報を処理する大脳の神経細胞が、最初は神経活動によらずに機能を獲得し、その後、神経活動に依存して機能を環境に最適化させることを発見したと発表した。これは“脳の発達を左右するのは氏か育ちか”の議論に貢献する結果だという。
画像はリリースより
脳の神経細胞の機能が遺伝的に決まっているか、それとも生後の環境や神経活動によって決まるのかについては長く議論されてきた問題である。一説では、神経細胞がはじめに機能を獲得するときから、神経細胞自身の活動が必要と考えられてきた。
研究グループは、神経細胞がどのようにして機能を獲得するかを調べるために、視覚野の方位選択性という機能を調査。ヒトが物を見るとき、視覚情報を処理する大脳の領域(視覚野)では、個々の神経細胞が特定の場所にある特定の傾きをもった線分に反応しており、この性質は方位選択性と呼ばれる。
発達期に起こる脳・精神疾患の病態理解につながると期待
同研究グループは今回、方位選択性の形成を左右するのが“氏か育ちか”を調査した。実験にはマウスを用いて、胎児期から神経細胞の活動を抑制し、その後、成長したマウスで方位選択性が正常に発達しているかどうかを検証した。
その結果、大脳の神経細胞がはじめに機能を獲得するとき、神経活動が重要でないことを初めて明らかにした。この結果は、はじめの機能獲得には“氏”が重要と解釈できる。また、はじめの機能獲得の後、情報表現が最適化される次の段階があり、そこに自発神経活動が重要なことも明らかにとなった。この結果は、脳の機能発達は“氏か育ちか”だけではなく、発達期の脳が、自分で起こす神経活動を使って機能を最適化させるメカニズムをもつことを意味するという。
同研究成果により、大脳機能の発達メカニズムの解明へ向けて大きく前進するとともに、発達期における神経活動の異常が原因となって発症する脳・精神疾患の病態理解につながることへの期待が寄せられる。なお、今回の研究結果は英科学雑誌「Nature Neuroscience」誌オンライン速報版に11月2日付で公開された。
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