血流の再開そのものが心筋細胞に傷害を与える「虚血再灌流傷害」
福島県立医科大学は11月4日、骨髄に由来する細胞から産生・分泌されるペントラキシン3(PTX3)が欠損することにより虚血再灌流傷害は強く起こることが示され、PTX3は虚血再灌流傷害に対して心臓を保護する働きを持つことが示唆されたと発表した。
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この研究成果は同大学循環器・血液内科学講座の清水竹史助手および竹石恭知教授らによるもの。心筋虚血再灌流傷害のメカニズムに関する新発見であるとして、米科学誌「Journal of Molecular and Cellular Cardiology」電子版に10月31日付で掲載されている。
急性心筋梗塞は、心臓に栄養を送る冠動脈が突然閉塞し血流が途絶え、心筋細胞が壊死をきたす、致死率の高い疾患だ。現在、カテーテル治療による発症早期の血行再建術が、壊死に陥る心筋細胞の量を減らし、生存率を向上させる極めて有効な治療方法として、広く普及している。
しかし、血行再建術には未解決の問題があり、血流の再開そのものが心筋細胞に傷害を与えるという逆説的な現象が存在し、「虚血再灌流傷害」と呼ばれる。この現象が、早期再灌流療法の効果を減弱させている可能性があり、そのメカニズムの解明と対策が必要性を増している。そこで今回同研究グループは、PTX3という分子に注目し、心筋梗塞における虚血再灌流傷害との関連について研究を行ったという。
PTX3をターゲットとした虚血再灌流傷害の治療法開発へ期待
同研究グループは、野生型のマウスと、体内にPTX3が産生されないよう遺伝子改変を施したマウス(PTX3欠損マウス)の冠動脈を結紮して心筋梗塞を作成し、続いて血流を再開させた。その結果、PTX3欠損マウスは野生型マウスに比べ、大きな心筋梗塞が形成されて いたという。詳細に解析すると、PTX3欠損マウスの心臓では、より強い炎症と酸化ストレスが認められ、PTX3が欠損することにより虚血再灌流傷害がより強く起こると考えられた。
さらに、PTX3は主に、白血球など骨髄で産生される細胞と、心臓や血管に存在する細胞から産生・分泌されるが、どちらから産生・分泌されたPTX3が作用しているかを明らかにするため、2種類のマウスの骨髄をお互いに移植し、それらのマウスに同様の方法で心筋梗塞を作成した。その結果、PTX3欠損マウスの骨髄を持つマウスにおいて、より強い虚血再灌流傷害が起こっていることが示されたという。
これらの結果から、骨髄に由来する細胞から産生・分泌されるPTX3が欠損することにより、虚血再灌流傷害は強く起こることが示され、PTX3は、虚血再灌流傷害に対して心臓を保護する働きを持つことが示唆された。この研究結果は今後、心筋梗塞におけるPTX3をターゲットとした虚血再灌流傷害の治療法開発へ発展することが期待される。
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