γ-チューブリンに対する特異的阻害剤「Gatastatin」を開発
筑波大学は10月30日、α/β‐チューブリン阻害剤であるGlaziovianin AとPlinabulinを合成展開することで、γ-チューブリン阻害作用を示す化合物の開発を進め、γ-チューブリン特異的阻害剤「Gatastatin」の開発に成功したと発表した。これは、同大学生命環境系の臼井健郎准教授と知念拓実研究員、ドイツ・ハイデルベルク大学のElmar Schiebel教授、筑波大学数理物質系の木越英夫教授、岡山大学大学院自然科学研究科の早川一郎准教授、東京薬科大学の林良雄教授、理化学研究所生命システム研究センターの岡田康志チームリーダーと島知弘研究員(現・東京大学大学院理学研究科助教)による研究。同成果は英科学誌「Nature Communications」に10月27日付で先行公開されている。
画像はリリースより
細胞骨格の1つである微小管はα/β‐チューブリンが重合してできる中空のチューブであり、細胞分裂期で染色体を均等分離する紡錘体の主要構成タンパク質。このため、α/β‐チューブリンに対する阻害剤のいくつかは、細胞分裂を活発に行っているがん細胞に対する治療薬として使用されている。しかし、微小管は細胞分裂期以外でも重要な働きをしており、細胞分裂を行っていない正常細胞も傷つけてしまうため、副作用が問題になっていた。
γ-チューブリンはα/β‐チューブリンと似たタンパク質だが、中心体に局在し、α/β‐チューブリンの重合を促進する機能を持っていることが知られている。さまざまな研究により、γ-チューブリンが細胞分裂期に活性化すること、一部のがん細胞で過剰発現していることなどから、副作用の少ない新たな抗がん剤の標的タンパク質としての可能性が示されていた。しかし、これまで特異的阻害剤は知られていなかった。
γ-チューブリンを標的とした新たな抗がん剤の開発に期待
研究グループはこれまでに、Glaziovianin A、Plinabulinなどの微小管機能阻害メカニズムの解析を進めており、強力な微小管重合阻害剤の開発や、新たな微小管阻害機構を明らかにしてきた。そこで今回は、γ-チューブリン阻害剤の開発を目的に、Glaziovianin A、Plinabulinの合成展開を進めた。
その結果、γ-チューブリン特異的阻害化合物「Gatastatin」の同定に成功。Gatastatinを用いて細胞内γ-チューブリン機能の解析を行ったところ、γ-チューブリン機能が細胞分裂期後期に重要であるなど、これまで知られていなかったγ-チューブリン機能を明らかにすることに成功したという。
今後、より活性の強いγ-チューブリン特異的阻害剤の開発や、細胞内γ-チューブリン機能の解析を通じて、γ-チューブリンを標的とした新たな抗がん剤の開発が期待される。
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・筑波大学 プレスリリース