がんの分化度や再発率などと関連していることが明らかに
理化学研究所は10月29日、肝細胞がんではレトロウイルス由来RNAの発現が活性化しており、がんの分化度や再発率などと関連していることを発見したと発表した。この研究は、理研ライフサイエンス技術基盤研究センタートランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチ チームリーダーと橋本浩介研究員らの研究チームによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Genome Research」に10月28日付で掲載されている。
画像はリリースより
世界での肝臓がんによる死亡者数は全がん種の中で2位(日本では5位)で、国内の死亡者数は毎年3万人となるなど、その対策が重要な課題となっている。肝臓がんの70~85%は、肝臓の細胞そのものががんになる肝細胞がんであり、ゲノム解析からがん化に関わる遺伝子の解明が進められている。
近年、肝細胞がんでは転写を制御するタンパク質の遺伝子に変異があり、正常な転写ネットワークが破壊されている可能性が示唆されていた。しかし、これらの解析はタンパク質をコードする遺伝子や一部のマイクロRNA(miRNA)を対象としており、それ以外のノンコーディングRNA(ncRNA)の解析はほとんど行われてこなかった。
肝細胞がんの病態解明、診断マーカーへの応用に期待
今回、研究チームは、肝細胞がん患者から採取した肝臓組織を用いて、がん化した細胞とその周辺のがん化していない細胞からRNAを抽出。CAGE法により、がん細胞特異的に発現するRNAの解析を行った結果、肝細胞がんで有意に発現が上昇する4,756個のncRNAを見いだし、その20%近くがレトロウイルスに由来するLTR配列を含むことを明らかにした。RNA発現データと臨床データを比較したところ、LTRの発現が強いほど再発のリスクが高いなど、肝細胞がんの病態との関連も分かったという。
また、肝細胞がんを発症するモデルマウスの解析においても、発現が上昇したncRNAのうち18.9%がLTRからの転写であり、肝細胞がんの進行とともにその発現が高くなることが観察されたという。これらの結果から、LTR発現の活性化はヒトとマウスの肝細胞がんに共通の特徴であることが示された。
肝細胞がんの発症メカニズムはまだ不明な点が多く、LTRがその解明の鍵となる可能性がある。今後、個々のLTRの発現を阻害や過剰発現などにより、LTRの発現とがん化の関係を明らかにしていくという。また、がんの進行とともに発現が変化するLTRは、肝細胞がんの新たなバイオマーカーとしての利用も期待できると研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース