肝移植患者に対する全国スクリーニング調査を実施
筑波大学は10月28日、アジア圏で初となる移植後患者でのE型肝炎感染の実態調査を全国規模で実施し、その結果を発表した。この研究は、同大学医学医療系消化器外科・臓器移植外科の大城幸雄教授によるもの。研究の成果は、Cell誌とLancet誌が共同でサポートする新規オープンアクセス誌「EBioMedicine」に9月21日付で公開された。
E型肝炎は主に経口経路で伝播するウイルス肝炎で、日本では動物や飲食物を介してヒトに感染する4類感染症に分類されている。E型肝炎ウイルス(HEV)に感染した場合、多くは不顕性感染あるいは特別な治療を要さず自然軽快するが、元々肝疾患を持つ患者や妊婦では、劇症化率や致死率が高くなる。
これまでE型肝炎は慢性化しないと考えられていたが、近年、欧州諸国を中心に臓器移植患者など免疫抑制下でのHEVの慢性感染が相次いで報告されている。国内においても感染の報告例が増加傾向にあり、その認知は徐々に高まりつつあるが、日本を含むアジア諸国では大規模な調査は行われておらず、臓器移植後患者におけるHEV感染の潜在が懸念されているという。
HEV RNAを測定した1,651例中2例が陽性
今回、研究グループは全国17施設(北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、慶應義塾大学、順天堂大学、信州大学、京都大学、大阪大学、神戸大学、岡山大学、広島大学、徳島大学、愛媛大学、九州大学、長崎大学、熊本大学)の肝移植後患者を対象に、抗HEV抗体、HEV RNA測定を行う横断研究を実施した。
その結果、HEV、RNAを測定した1,651例中2例が陽性となり、日本で初めて慢性E型肝炎が明らかとなった。さらに追跡調査の結果、HEVの感染源はいずれの症例も周術期に使用された輸血製剤であることが判明したという。
HEV感染は、肝移植だけでなく、他の移植手術においても存在する可能性がある。日本ではこれまでに10例以上の輸血製剤を感染源としたHEV感染が報告されている。受血者には、臓器移植患者以外にも抗がん剤治療中など多くの免疫能が低下した患者が含まれる可能性があり、輸血後の追跡調査や献血スクリーニング拡大の必要性が示唆される結果となった。現在、対象を腎移植・心移植患者に拡大し調査を継続中だという。
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