大がかりな装置が必要な心磁図を用いた診断技術法
九州大学は10月26日、同大大学院総合理工学研究院の笹田一郎教授らの研究グループが、36チャンネル心磁計と合わせて軽量低価格な磁気シールドを開発し、室温動作磁界センサの36チャンネルもの規模で計測することに世界で初めて成功したと発表した。同研究グループは2015年5月に、液体ヘリウムや液体窒素で冷却すること無く、室温で動作する磁界センサによって心磁界分布の計測に成功している。
画像はリリースより
現在、心臓の動作は、体表面に現れる電圧に基づく心電図によって計測されているが、心筋の何処に電流が流れているかを推定することはできない。心臓の神経に流れる電流が体外に作る磁界(心磁界)を用いれば電流推定ができ、より基礎的な診断のための情報が得られ、詳細な診断が可能になると期待されていた。
しかし、心磁界は自動車や地下鉄車両の往来、エレベータの稼働などによって簡単にかき消されてしまうほど微弱なもの。これまでは、液体ヘリウムあるいは液体窒素で冷却された多数のSQUID(超伝導量子干渉素子)素子を用いて計測していたが、装置が大がかりになり心磁図を用いる診断技術法は普及していない。
心電図との併用で診断精度の向上にも期待
研究グループは、長さ45mm外径3mmのセンサヘッド36本を4cm格子上に配置し、胸部を20cm平方の正方形領域でカバーする36チャンネルセンサアレイからなる心磁計を開発。冷却や加熱を一切必要とせず、低コストかつ容易に取り扱うことができ、両手首からの心臓の動作に伴って発生する電圧波形も同時に計り、そのピーク時点をトリガーとして、2分間ほどの計測で心磁図が得られるという。室温動作センサで36チャンネルもの規模で計測したのは、同研究が世界で初めてとなる。
心電図の計測では胸部等に電極を直接取り付ける必要があるが、心磁界の場合は衣服を着たままで計測が可能になる。心臓の神経に流れる電流が作る磁界の計測に基づく心磁図の両方を利用することで、心臓の健康に関するより多くの情報が得られるとともに、人の体表での電圧計測に基づく心電図と併用すれば診断精度をさらに高められることが期待される。
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