レム睡眠には、ノンレム睡眠中にデルタ波を誘発する役割が
筑波大学は10月23日、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えを司る脳部位を発見し、レム睡眠を操作できるトランスジェニックマウスを開発した結果、レム睡眠にはデルタ波と呼ばれる記憶形成や脳機能の回復に重要な神経活動を、ノンレム睡眠中に誘発する役割があることが判明したと発表した。
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この研究は、同大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の林悠助教らと理化学研究所脳科学総合研究センターの糸原重美チームリーダーらの共同研究グループによるもの。同成果は、科学雑誌「Science」に10月22日付で公開されている。
レム睡眠の発見から60年以上経った今なお、レム睡眠の役割は脳科学上の最大の謎の1つとされる。レム睡眠とノンレム睡眠が見られるのは、複雑な脳を持つ哺乳類と鳥類のみであり、これら2つの睡眠は、脳の高等な機能に関わると考えられてきた。
レム睡眠は新生児期や学習直後に多いことは知られていたが、レム睡眠を単純な強制覚醒により阻害する実験では、刺激そのものによるストレスが生じてしまうなど、レム睡眠を有効に阻害する方法がなかったため、具体的な役割は分かっていなかった。また、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えのメカニズムに関しても、脳のどの細胞がスイッチの役を担っているのかは、正確には分かっていなかった。
レム睡眠が脳の発達や学習に貢献する可能性
今回発表された小規模な探索的サブスタディのデータでは、治験中の骨形成促進剤である今回、研究グループは、マウスの遺伝子操作技術を駆使した結果、レム睡眠からノンレム睡眠へと切り替えるスイッチの役割を担う神経細胞を発見。神経細胞の活動を操れる手法(DREADD)により、この神経細胞の活動を人為的に強めたマウスでは、レム睡眠が消失し、この神経細胞の活動を弱めたマウスでは、レム睡眠が顕著に増えたという。
そこで、このレム睡眠を操作できる世界初のトランスジェニックマウスを用いて、レム睡眠の効果を解析。その影響は、デルタ波という脳波に現れた。デルタ波も同様に哺乳類と鳥類に固有の現象であり、神経細胞同士の連絡であるシナプスを強め、学習や記憶形成を促す作用が知られている。デルタ波はノンレム睡眠中に最も生じやすいが、レム睡眠を無くすと、次第にノンレム睡眠中のデルタ波が弱まり、逆にレム睡眠を増やすと、デルタ波が強まったという。これによりレム睡眠は、デルタ波を強める作用があることが判明し、この作用を介して学習や記憶形成に貢献することが示唆された。
今後は、レム睡眠の減少が指摘されている自閉症スペクトラムや注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害、デルタ派の低下が知られているアルツハイマー病やうつ病、睡眠時無呼吸症候群などにおける、レム睡眠の異常とその他の症状との関連を検討することで、発症のメカニズムの理解や治療法の開発につながると期待される。
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