設立の背景について清野氏は「若手医師の研究マインドが低下している。長い目で見ると日本の損失になる。優秀でもきっかけをつかめず、市中病院に出たまま研究に踏み出せない若手医師もいる。研究マインドを持って研究に取り組んでほしいし、さらに研究したい人は大学に戻って大学院に進んだらいい。その橋渡しをしたいと考えた」と話す。
民間の医療機関と連携した医学系研究所のうち文科省の認可を得た機関は、1925年設立の田附興風会医学研究所(北野病院と連携)、73年設立の冲中記念成人病研究所(虎の門病院と連携)など過去に4拠点しか存在しなかった。「いくつかの病院が設置しようとしたが断念したと聞いている。このような形で実現できたことは、関係者に大きなインパクトを与えたのではないか」と清野氏は語る。
現在の制度では民間医療機関は研究機関として国から認定を受けられない。約2年間かけて準備し、同院が所属する関西電力の組織外にあり健診事業などを手掛ける関連会社、関西メディカルネット内に同研究所を設置する形で、文科省から今年6月に認可を得た。同院の医師らがこれまで取り組んできた研究実績も高く評価され、認可に至ったという。
本部は、神戸バイオテクノロジー研究・人材育成センター内に設置し、今月1日から稼働を開始した。全自動生体ペプチド測定機、細胞培養設備、蛋白・遺伝子定量機器などを備えた研究実験室も確保した。
同研究所の組織としては、糖尿病研究センター糖尿病・内分泌研究部、同代謝・栄養研究部、心臓・血管(循環器)研究部、臨床腫瘍研究部など12部門に加え、臨床教育・研修センター、糖尿病地域医療推進センターの2センターを設置した。
関西電力病院の医師が各部長やセンター長を兼任するほか、薬剤師、看護師、理学療法士、管理栄養士など医療スタッフも兼任研究員として加わった。名古屋大学、京都大学など国内外の研究者を客員研究員として招聘。専任研究員1人、テクニシャン数人も配置し、研究員は総勢50人以上になる。「手挙げで院内から参加者を募ったが、身近に研究環境があればやってみたいというスタッフが多いことに驚いた」と副所長の矢部大介氏(同院糖尿病・代謝・内分泌センター部長)は振り返る。
食事内容や食べる順番など日常の食事習慣が糖尿病治療薬の有効性に及ぼす影響や、生活習慣病予防との関連性を調べるなど、約30テーマの研究を進める計画だ。多職種での患者教育が重要視される中、教育効果指標の確立や、より良い教育ツール、教育方法を開発する研究にも力を入れたいという。
研究費は国や財団、企業などの公募に申請して獲得する。近年これらの公募型研究には、文科省の認可を得た研究所の研究員しか応募できない傾向が強まってきた。研究所の設置によって引き続き、これらの研究費を獲得できる機会を得られる。同様に医師主導型臨床研究にも、積極的に取り組みたい考えだ。
病院で勤務しながら研究も行える環境の整備によって優秀な人材が集まり、「臨床も活性化して、患者さんにもいい医療を提供できるという相乗効果も見込める」と清野氏は話している。