ATLに対する過去最大規模の遺伝子解析研究
京都大学は10月21日、約400例の成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia lymphoma:ATL)症例の大規模な遺伝子解析を行い、ATLの遺伝子異常の全貌を解明することに成功したと発表した。
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これは、同大大学院医学研究科腫瘍生物学の小川誠司教授、宮崎大学医学部内科学講座消化器血液学分野(第二内科)の下田和哉教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授、国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長、京都大学ウイルス研究所ウイルス制御研究領域の松岡雅雄教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻の渡邉俊樹教授を中心とする研究チームによる成果である。
ATLは、日本を主要な流行地域の1つとするヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type-1:HTLV-1)感染によって生じる極めて悪性度の高い血液がん。乳児期にHTLV-1ウイルスに感染したT細胞に、数十年間にわたってさまざまな遺伝子の変化が生ずることによってATLの発症に至ると考えられているが、従来こうした遺伝子の変異については多くが不明のままだった。
さまざまな手法を組み合わせ、包括的にATLの遺伝子異常を解明
今回の研究では、全エクソン解析・全ゲノム解析・トランスクリプトーム解析などの次世代シーケンサーを用いた解析およびマイクロアレイを用いたコピー数異常やDNAメチル化の解析を組み合わせて、さまざまな遺伝子の異常を包括的に明らかにしたという。この大規模なデータ解析は、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターと共同で、スーパーコンピュータ「京」を利用することにより可能となった。
報告によると、これまで同定されていなかった多数の新規の異常を含むATLの遺伝子異常の全体像の解明に成功。今回同定された異常は、PLCG1、PRKCB、CARD11、VAV1、IRF4、FYN、CCR4、CCR7などの機能獲得型変異、CTLA4-CD28、ICOS-CD28などの融合遺伝子、CARD11、IKZF2、TP73などの遺伝子内欠失などからなる。
これらの異常は、T細胞受容体シグナルの伝達をはじめとする、T細胞の分化・増殖などのT細胞の機能に深く関わる経路や、がん免疫からの回避に関わる経路に生じており、こうした異常によって正常なT細胞の機能が障害される結果、T細胞のがん化が生じてATLの発症に至ると考えられた。特に、ホスホリパーゼCやプロテインキナーゼC、FYNキナーゼ、ケモカイン受容体など、同定された変異分子の多くが新規治療薬剤の開発に向けた有望な標的と考えられるという。
同研究の結果は、ATLの病気の仕組みの解明に大きな進展をもたらすのみならず、今後、この疾患を克服するための診断や治療への応用が期待されると、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果