自発的なうつ状態を繰り返す初めてのモデルマウスを作成
理化学研究所は10月20日、うつ病・躁うつ病を伴う遺伝病の原因遺伝子の変異マウスが、自発的なうつ状態を示すことを発見したと発表した。さらに、このうつ状態の原因が脳内の「視床室傍核」という部位のミトコンドリア機能障害にあることを突き止めたという。
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この研究は、同研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームの加藤忠史チームリーダー、笠原和起副チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Molecular Psychiatry」オンライン版に、10月20日付で掲載された。
一般的にうつ病や躁うつ病は、抗うつ薬や気分安定薬などによる治療が行われているが、すべての人に有効とはいえず、副作用もあるため、新たな薬の開発が期待されている。しかし、うつ病や躁うつ病の原因は完全には解明されておらず、画期的な新薬の開発は成功にはいたっていない。その理由のひとつが、抗うつ薬の創薬研究が主にストレスによる動物の行動変化を指標に行われてきたことにあると考えられている。
視床室傍核の病変によりうつ状態が生じている可能性
研究グループは、ミトコンドリア病という難病のひとつである「慢性進行性外眼筋麻痺」の患者が、うつ病や躁うつ病を示すことに着目し、その原因遺伝子の変異が神経のみで働くモデルマウスを作成していた。2006年には、日内リズムの異常や性周期に伴う行動量の変化を報告した際、2週間ほど活動低下が続く場合があることわかっていたという。
今回、この活動低下を詳細に分析し、この状態が平均すると半年に1回見られ、うつ病の診断基準を満たす(興味喪失、睡眠障害、食欲の変化、動作の緩慢、疲れやすい、社会行動の障害)ことを示した。また、この状態にあるマウスは、うつ病と同じような治療反応性や生理学的変化を示したという。
そこで、この活動低下の原因となる脳部位を明らかにするため、異常なミトコンドリアDNAが多く蓄積している脳部位を探索したところ、これまでうつ病との関連が知られていなかった「視床室傍核」という部位に著しく蓄積していることが判明。また、同じようなミトコンドリアの機能障害は、うつ状態を示すミトコンドリア病患者の視床室傍部でも見られたという。さらに、正常なマウスの視床室傍核の神経細胞の神経伝達を人為的に遮断したところ、モデルマウスに似た低行動状態が発現。これは、モデルマウスのうつ状態が、視床室傍核の病変により生じていることを示唆しているという。
今回の研究により、これまでとは作用メカニズムが異なる抗うつ薬や気分安定薬の開発につながると期待される。また、今後の研究でうつ病や躁うつ病の一部が、視床室傍核の病変で起きることが証明できれば、これらの病気をこころの症状ではなく、脳の病変により定義することができると考えられる。精神疾患を脳の病として理解する道が開け、脳の病変に基づく診断法の開発につながる可能性もある。
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・理化学研究所 プレスリリース