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国内唯一のデバイスがもたらす、大動脈解離の血管内治療のこれから

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2015年10月22日 PM02:10

“ねじれ”が解消された大動脈解離の血管内治療

米国クック メディカルは10月21日、日本初となる大動脈解離用血管内治療デバイス「COOK Zenith大動脈解離用エンドバスキュラーシステム」の販売の全国展開を、この10月から開始したと発表した。同日、同社日本法人のCook Japan株式会社は、メディア説明会を開催。森之宮病院 心臓血管外科の加藤雅明部長が講演した。


森之宮病院 心臓血管外科部長 加藤雅明先生

このシステムは、大動脈解離治療目的の新たな機能区分として、2015年7月1日付で保険収載された。大動脈解離治療専用の血管内治療用デバイスとして設計された製品としては、現時点で唯一承認済みのシステムだ。合併症を有する急性期Stanford B型大動脈解離のうち、内科的治療が奏功しない患者の血管内治療に用いられる。

それぞれのデリバリーシステムに搭載された「」と「ベアステント」から構成される。ステントグラフトは、主要なエントリー亀裂や二次的なエントリー亀裂を閉鎖して偽腔(本来の血流路である動脈内腔(真腔)とは別に、血管壁内に形成される血流路)の血栓化を促進。ベアステントは、大動脈の剥離したセグメントを補強し、機能低下している内臓動脈の血流の改善を図る。

2011年に発表された日本循環器病学会ガイドラインでは、合併症をともなう急性B型の大動脈解離に対するステントグラフによるエントリー閉鎖は、「Class I」として強く推奨されていた。COOK Zenith大動脈解離用エンドバスキュラーシステムが承認されたのは2014年。加藤部長は「ステントグラフによる治療が推奨はされているのに、保険適応されたデバイスが無いという“ねじれ現象”が起きていた。そのねじれがようやく解消され、現場としても有り難く思っている」と語った。

慢性期の拡大を予防するステントグラフトによる “先制攻撃”

一方、B型大動脈解離では、90%の症例において合併症はなく、薬による降圧安静治療が行われている。そのうち30%ほどの患者は、慢性期に偽腔が拡大。解離性大動脈瘤となり、手術が必要になる。「40~50cmと広範囲に解離した部分が瘤となるため、非常に大きな手術が必要になる。分割して手術したとしても、インターバルの間に瘤が破裂したり、癒着によりその後の手術が難しくなるという問題もある」(加藤部長)

こうした慢性期の患者にも、ステントグラフトによる治療が有効ではないかと加藤部長は語る。「2週間の急性期を過ぎて外膜の強度が上がった時点でエントリーを閉じれば、偽腔を膨らまさせずに血栓化できる。その血栓も半年後には縮んだり無くなったりして、元の大動脈のように戻る」(加藤部長)。

すでに欧州や米国では、慢性期の患者に対してもステントグラフトによる治療が推奨されている。加藤部長は「ランダマイズ試験では、降圧治療よりもステントグラフトによる治療の方が、生存率も良くなり大動脈の偽腔も膨らまないという結果が出ている。次のガイドライン改訂では、Class IIaとして推奨される予定。日本においても今後は、慢性期の拡大を予防するためにステントグラフトで“先制攻撃”を掛けるという治療が一般的になっていくだろう」と語った。

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