一酸化窒素が小胞体ストレス応答を特異的に抑制
岡山大学は10月9日、同大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の上原孝教授らの研究グループが、一酸化窒素が小胞体ストレス応答における核へのシグナル伝達を抑制することを突き止め、神経細胞死が誘導される仕組みを明らかにしたと発表した。同研究成果は10月8日付で、英科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
一酸化窒素は、タンパク質成熟に必須な酵素であるジスルフィド異性化酵素を酸化(ニトロシル化)して、酵素活性を阻害することで未成熟な変性タンパク質を蓄積させる。このタンパク質酸化体はパーキンソン病やアルツハイマー病のヒト死後脳でも検出され、これまでに病態発症との因果関係が指摘されてきた。
上原教授ら研究グループは、一酸化窒素の作用メカニズム解明を目指し、一酸化窒素の標的タンパク質を同定してその機能変化を解析。分子レベルでの病態発症機構の証明に取り組んできていた。そこで今回は、タンパク質合成・成熟に重要な細胞内小器官である小胞体への影響を研究していた。
パーキンソン病や脳梗塞の新たな診断法や治療薬開発に期待
同研究グループは、一酸化窒素が小胞体を起源とする小胞体ストレス応答(unfolded protein response, UPR)のIRE1α—XBP1経路を抑制することで、ストレス抵抗性に関わるシグナル伝達を阻害していることを発見。神経細胞で、アポトーシス(細胞死)を引き起こす仕組みを解明したという。
小胞体ストレス応答に関わるセンサー分子(IRE1α)は、変性タンパク質蓄積を関知するセンサー機能と、この情報を核へ伝える2つの役割を担っている。同研究では、一酸化窒素がセンサー機能には影響せず、核へのシグナル伝達(ヌクレアーゼ活性)を抑制することが判明。また、細胞死抵抗因子の遺伝子発現が抑制される同様の現象が、パーキンソン病モデルにおいても観察されることを証明したという。
一酸化窒素が小胞体ストレス応答を特異的に抑制することがわかったことから、他の酸化ストレスも同様のメカニズムで神経細胞死を誘導することが強く推定された。この作用を抑制する薬物は、神経細胞保護効果を発揮する可能性があり、今後、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患治療への新たな戦略のひとつとなることが期待される。
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