先天性疾患の原因ともなるトキソプラズマ
大阪大学免疫学フロンティア研究センターは10月2日、同大学微生物病研究所の山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らの研究グループが、p62と呼ばれる宿主分子が、病原性寄生虫「トキソプラズマ」の実験的不活化ワクチンの免疫的効果発揮に重要な役割を果たすことを発見したと発表した。
画像はリリースより
トキソプラズマは、エイズや抗がん剤投与下にある免疫不全の大人で、致死的な脳炎や肺炎を引き起こす病原体。また、健康な妊婦が初感染すると胎児に垂直感染し、流産や死産、さらには新生児がトキソプラズマに感染した状態で生まれ、先天性疾患の原因ともなる。
現在、ヒトで使用可能なトキソプラズマのワクチンは存在せず、マウスなどの実験動物を用いて不活化ワクチン開発のための基礎研究が進められている。しかし、トキソプラズマ不活化ワクチンがどのようにして免疫的効果を発揮するのか、特にワクチンを投与された側の体内でどのような免疫反応が最初に起きることが重要なのかについては、よく分かっていなかった。
宿主タンパク質p62を標的としたワクチンの開発に期待
今回の研究により、研究グループはインターフェロンガンマ刺激依存的な宿主タンパク質であるp62が、トキソプラズマに蓄積することを確認。また、トキソプラズマ感染細胞では、p62とインターフェロンガンマ依存的にキラーT細胞活性化能が高まることが判明した。さらに、p62欠損マウス個体では、トキソプラズマ不活化ワクチン投与に対するキラーT細胞活性が著しく低下することが分かったという。
山本教授らによる今回の発表とほぼ同時に、ヒトの細胞においてもインターフェロンガンマ刺激的にp62がトキソプラズマ寄生胞に蓄積することを米国の研究グループが発見、報告しており、今山本教授らによる研究成果は、マウスのみならずヒトにも当てはまることが十分に予想されるという。
ワクチン開発が進まず、日本を含め半ば「無視された感染症」(Neglected Infectious Diseases)の状態となっているトキソプラズマ症に対して、p62を新たな標的とし、その機能を高める等によって、新規の治療・予防戦略を提供できると期待されている。
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・大阪大学免疫学フロンティア研究センター プレスリリース