病巣のびまん化を、炎症性マクロファージが抑えていることを発見
東京大学は10月8日、シリカ微細粒子によって起きる線維化病巣の拡大と組織細胞の活性化を、骨髄由来の炎症性マクロファージが抑制していることを発見したと発表した。これは、同大学大学院医学系研究科の松島綱治教授、七野成之大学院生、上羽悟史講師、森川鉄平講師、金沢大学の橋本真一教授、東海大学の稲垣豊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「The American Journal of Pathology」オンライン速報版に同日付けで公開されている。
画像はリリースより
PM2.5の構成物質の1つであるマイクロメートル以下サイズのシリカ微細粒子は、水に不溶なため継続的に吸引することにより肺に蓄積し、線維化病巣を形成する慢性肺線維症を引き起こす。それら病巣の拡大による気管支狭窄やガス交換不全などにより、最終的に呼吸困難、死に至る。有効な治療法は未だ存在しないため、治療法の早急な開発が望まれている。
肺のマクロファージは、吸入された微細粒子の取り込みなど、肺における微細粒子への免疫応答で重要な免疫細胞の1つ。その大部分を占める骨髄由来の炎症性マクロファージが、 シリカ微細粒子によって引き起こされる慢性肺線維症に対して、どのように関与しているのかは不明だった。
微細粒子による慢性肺障害の新規治療法の開発に期待
今回、研究グループは、骨髄由来の炎症性マクロファージの末梢組織への浸潤が起こらない遺伝子欠損マウスで解析したところ、シリカ微細粒子によって誘導された線維化病巣がびまん化し、拡大することが分かったという。
びまん化した慢性肺線維症病変は、最も予後不良なヒト慢性肺線維症である、特発性肺線維症の特徴の1つであることから、同研究グループはヒトの特発性肺線維症との類似性を、遺伝子レベルで網羅的に検証。その結果、この遺伝子欠損マウスの肺組織細胞での遺伝子発現パターンは、ヒトの特発性肺線維症の発現パターンに、野生型マウスと比べてより近しいことが明らかになったという。
このことから、このマウスでの知見をヒトに応用できる可能性がある。シリカ誘導肺線維症の新しい免疫抑制機構の発見は、シリカ微細粒子が引き起こす慢性肺線維症に対する、新たな治療標的の開発に役立つと期待されている。
▼関連リンク
・東京大学 ニュースリリース