不明だった無意識に視線が他者の注意をそらす脳のメカニズム
京都大学は10月8日、視線により無意識で注意がそれる神経メカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学研究科の佐藤弥特定准教授、魚野翔太特定助教、十一元三教授、ATR脳活動イメージングセンタの河内山隆紀研究員らの研究グループによる成果。同研究成果は、9月末に米科学誌「NeuroImage」のウェブサイト速報版に掲載され、後日、正式版が出版される。
画像はリリースより
視線はヒトのコミュニケーションに欠かせない手段だが、同研究グループは、以前行った行動実験において、視線による注意の移動が、無意識(視線が見えないサブリミナルの状況)でも起こることを発見していた。しかし、無意識の視線による注意の移動がどのような脳のメカニズムによって起こるのかは不明のままだった。この問題を検討するため、同研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を計測。それた視線およびまっすぐな視線を、無意識的な閾下(サブリミナル)および通常の意識的な閾上で呈示したという。
自閉症スペクトラム障害での視線処理問題について研究予定
その結果、閾上条件でも閾下条件でも、それた視線に対して、下頭頂小葉・中前頭回といった大脳新皮質の脳部位が強く活動することが明らかになった。これらは、注意の移動に関わることが知られている脳部位。また、閾下呈示の場合には特に、それた視線に対して、上丘・扁桃体といった皮質下の脳部位が活動することもわかったという。これらの領域は、無意識での視覚情報処理を担当していると考えられている。こうした結果から、無意識の視線による注意シフトを実現するために、意識的な場合と共通する注意の脳内ネットワーク、さらに意識的な場合とは異なる脳内の別の情報処理経路が関与していることが示唆されたとしている。
視線によるコミュニケーションは対人関係の形成に不可欠であり、その障害は生活上の困難をもたらすことがある。同研究グループは、心理学的な行動実験から自閉症スペクトラム障害の患者には、無意識の視線に障害があることを見出している。今後の展開として、こうしたグループにおいて視線コミュニケーション障害の基盤となる脳内ネットワークを解明する研究を予定している。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果