不明だった「心の状態」と「運動機能回復」の結び付き
生理学研究所は10月2日、脊髄損傷後のサルの運動機能回復の早期において、“やる気や頑張り”をつかさどる脳の領域である「側坐核」が、運動機能をつかさどる「大脳皮質運動野」の活動を活性化し、運動機能の回復を支えることを脳科学的に明らかにしたと発表した。
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この研究は、同研究所の西村幸男准教授と京都大学大学院医学研究科大学院生の澤田真寛氏(現・滋賀県立成人病センター脳神経外科)、理化学研究所・ライフサイエンス技術基盤研究センターの尾上浩隆グループディレクターの共同研究チームによるもの。同研究成果は、米国科学誌の「サイエンス」オンライン版に同日付で掲載されている。
脊髄損傷や脳梗塞の患者のリハビリテーションでは、意欲を高くもつと回復効果が高いことが、これまで臨床の現場で経験的に知られていた。それとは逆に、脳卒中や脊髄損傷後にうつ症状を発症するとリハビリテーションに支障が出て、運動機能回復を遅らせるということも知られている。しかし、実際に脳科学的に、“やる気や頑張り”といった心の状態が、運動機能回復にどのように結び付いているのかは解明されていなかった。
運動機能の回復には脳科学や心理学に基づく心理的サポートも
研究チームは、“やる気や頑張り”をつかさどる脳の神経核である「側坐核」と運動機能をつかさどる「大脳皮質運動野」との神経活動の因果関係に注目。脊髄損傷前のサルの側坐核を薬剤で一時的に働かない状態(不活性化)にしたところ、手を巧みに動かす動作(巧緻性運動)には全く影響がなかったが、脊髄損傷からの回復途中(脊髄損傷後約1か月)のサルでは、一旦直り始めていた手の巧緻性運動が障害されるとともに、大脳皮質運動野の神経活動が低下。また、手の機能が完全に回復した脊髄損傷後約3か月では、側坐核の不活性化による手の巧緻性運動への影響はなかった。これらの結果から、脊髄損傷後の運動機能回復の初期では、側坐核による運動野の活性化がリハビリテーションによる手の運動機能回復を支えていることがわかったという。
今回の研究結果から、“やる気や頑張り”をつかさどる「側坐核」が活発になることで、脊髄損傷からの運動機能回復を効果的に進めることができるものと考えられる。実際のリハビリテーションにおいては、運動機能を回復させるばかりでなく、脳科学や心理学などに基づく心理的サポートが重要であると研究グループは述べている。
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・生理学研究所 プレスリリース