2015年5~7月に韓国で流行したMERSの患者を分析
東京大学は9月30日、中東急性呼吸器症候群(MERS)の致死率と死亡リスク要因を流行中にリアルタイムで推定する統計学的手法を開発したと発表した。この発表は、同大大学院医学系研究科国際保健政策学分野の西浦博准教授によるもの。「BMC Medicine」オンライン版に、同日付で掲載されている。
画像はリリースより
2015年5~7月に韓国で流行したMERSは、中東地域でラクダからヒトへ伝播することで発生する新興感染症。患者がどの程度の頻度で死亡するのか(致死率)を推定するということは、同感染症の毒力(virulence)を理解する上で欠かせないとされる。しかし、従来の統計学的手法では、分析のために1,000人超の患者数が必要だった。
患者数が少なくても推定可能に
韓国のMERS流行では確定患者数が185人と少なく、従来的な手法ではリアルタイム推定が困難だったという。そこで同大学は、患者数が少ない場合でも致死率と死亡リスク要因をリアルタイムで推定する統計学的手法として、生存解析モデルとロジスティックモデルのハイブリッド型モデルを世界に先駆けて提案し、韓国における185人の患者情報をリアルタイムで分析した。
その結果、韓国におけるMERS の致死率が全確定患者中で約20%であること、60歳以上で呼吸器の慢性疾患などの基礎疾患を有する患者の致死率は48.2%と高いことが明らかになったという。また、それ以外の者の致死率は15%未満だった。
この調査から、今後日本では、高齢者の多い医療施設・介護施設・デイケアなどでMERSの感染が拡大せぬよう、流行対策を実施することが極めて重要と考えられる。また、MERSに限らず、何らかの新興感染症が流行を引き起こしたとき、流行のできるだけ早期から提案した推定モデルを利用して致死率を推定し、死亡リスク要因を特定することが可能になるものとして、期待が寄せられている。
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