核膜孔複合体因子NUP107遺伝子変異の同定
横浜市立大学は9月25日、同大学術院医学群の三宅紀子准教授、遺伝学教室の松本直通教授らが、小児期発症のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の責任遺伝子を新たに解明したと発表した。この研究は、関西医科大学医学部内科学第二講座の塚口裕康講師らとの共同研究による成果であり、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果のひとつである。
画像はリリースより
ネフローゼ症候群は、糸球体の濾過機能が障害を受け、結果的に蛋白尿、低アルブミン血症、脂質異常を呈する腎疾患。小児における特発性ネフローゼ症候群の大部分は、ステロイド反応性だが、10~20%の症例はステロイド抵抗性を示す(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群:steroid-resistant nephrotic syndrome, SRNS)。小児期発症のSRNSの67~73%の症例は、病理学的に巣状糸球体硬化症を示し、高い確率で腎不全へと進行すると言われている。しかし、70%の症例においてその遺伝的要因はまだ明らかではなかった。
小児期発症のSRNSの病態解明と、治療法の開発への寄与
今回、同研究グループは、既知のSRNS遺伝子に変異を認めない18家系(10家系は兄弟例、8家系は孤発例)を対象に全ゲノムエキソーム解析を用いて遺伝子変異探索を実施。その結果、18症例中5症例でNUP107遺伝子に両アレル性変異(複合ヘテロ接合性変異)を同定した。NUP107変異を認めた5家系のうち、4家系(8名)におけるネフローゼ発症は2~3歳であり、10歳以前に腎不全の状態に進行していたという。
NUP107は核膜孔複合体を構成するタンパク質NUP107をコードしており、このタンパク質は糸球体の濾過機能に重要な役割を果たすタコ足細胞を含め、全身の臓器に発現している。in vitroの実験で、患者に認められたNUP107変異体は、既知の結合タンパク質であるNUP133との結合が障害されていること、核膜孔への局在が障害されることを証明。さらにゼブラフィッシュを用いた解析で、NUP107をノックダウンすると、糸球体の低形成、タコ足細胞の構造異常が観察されたという。これら一連の解析により、NUP107の両アレル性変異でタコ足細胞の構造異常および機能障害が起こり、小児期SRNSが発症することが明らかになった。
今回、ネフローゼ症候群の新規疾患遺伝子および発症病態が明らかになったことにより、同変異に起因するネフローゼ症候群には腎移植が現状で最も有効な治療法であることが判明し、治療方針の決定に大きく役立つと考えられる。
▼関連リンク
・横浜市立大学 先端医科学研究センター 研究成果