膀胱付腎原基(クロアカ)移植と尿管吻合術を組み合わせる
慶應義塾大学は9月22日、クロアカ移植と尿管吻合術を組み合わせた方法を用いることで、ラットおよびクローンブタ体内で再生腎臓の尿排泄路の構築に成功したと発表した。この研究は、東京慈恵会医科大学医学部腎臓高血圧内科の横尾隆教授、明治大学農学部の長嶋比呂志教授、慶大医学部の小林英司特任教授、北里大学獣医学部の岩井聡美講師らの研究グループによるもの。同研究成果は、米国アカデミー紀要(PNAS)電子版にて発表されている。
画像はリリースより
慈恵医大腎臓再生グループでは過去に、ヒトの骨髄由来幹細胞とラットの胎仔を用いて、ラットの体内で尿を産生するヒト細胞由来の腎臓を作ることに成功。しかし、この再生腎臓には尿排泄路がなかったため、発育が継続しないという問題点があった。
今回、共同研究グループは、マイクロサージャリー技術を駆使して尿路を作るラットモデルを開発し研究を継続。さらに明治大学を拠点としてクローンブタを用いて再生腎臓の発達検証並びに尿路形成の研究を進めてきた。ブタは解剖学的にヒトとほぼ同じサイズの腎臓を持つことから、臓器再生用動物として適していることに加えて、クローンブタを用いることで拒絶反応の起こらない移植実験が可能となる。そこで今回、クロアカ移植と尿管吻合術を組み合わせる着想の下に、ラットでの基礎実験を経て、クローンブタ体内で新生腎臓の尿排泄路の構築を試みたという。
腎臓再生医療のヒト臨床応用に大きく寄与することを期待
まず、体細胞核移植技術により作成したクローンブタを用いて、クローンブタ間で腎原器の移植を実施。腎原器は移植後8週間で3cm程度に成長したが、腎組織は水腎症を呈していた。この結果から、再生腎臓の発育継続には、尿排泄路の構築が不可欠であることが分かったという。
次に、尿排泄路を構築する第一段階として、ラットのクロアカと後腎とのラット体内での発育の違いを比較検討。その結果、クロアカ由来の再生腎臓のほうが、組織の水腎症化が進行せず、糸球体や尿細管構造などの発育が良好となることが判明した。この発育したクロアカの膀胱とレシピエント動物の尿管を、マイクロサージャリー技術を導入して吻合することで、再生腎臓が産生する尿がクロアカ膀胱を経由して、レシピエント尿管からレシピエント膀胱内に持続的に排泄できることを、ラットを用いた実験で確認。研究グループはこの一連の方法を、Stepwise Peristaltic Ureter(SWPU)systemと名付け、クローンブタ間においてもこの方法が適応可能であることを示したという。
今後は、ヒトと同じ霊長類であるマーモセットを用いて、同様に再生腎臓の尿排泄路の構築が可能か、さらなる検討をしていく予定。また、新規腎臓の尿管・膀胱を完全にヒト細胞由来にすることには成功していないため、SWPU systemの際の拒絶反応を抑制する方法の開発にも取り組む予定だとしている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース