僧帽弁閉鎖不全の手術不能例に対する新たな治療法として期待
国立循環器病研究センターは9月9日、開心手術が困難な重症僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療による国内治験(治験識別記号:AVJ-514)の第一症例登録に成功したことを発表した。この治験は、同センターのハートチーム(心臓血管内科の安田聡部門長、心臓血管外科の小林順二郎部門長、手術麻酔科の大西佳彦部門長)によるもの。
画像はリリースより
僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症)は、僧帽弁の閉鎖機能が悪くなり、本来の血液の流れとは逆に、左心室から左心房に血液が逆流してしまう疾患。左心室から大動脈へ送られる血液の一部が逆流するため、その分、左心室は余分に仕事をしなければならず、その結果、左心室が大きくなっていく。病気の進行は比較的ゆっくりだが、逆流が重度のまま続くと左心室は大きくなるだけではなく、左心室の動きまで悪くなり、心不全につながってしまう。心不全の状態になると弁逆流を治療する手術の必要性が高くなる一方で、左心室の動きが悪い中での手術は危険性が高く治療困難になるという。
重度の僧帽弁閉鎖不全症で心不全を繰り返す患者への治験が成功
同疾患の外科的手術が困難で適応とならない症例に対し、近年、欧州などにおいては、AVJ-514というカテーテルによる低侵襲治療が行われるようになった。この治療法はカテーテルを用いて足の静脈から心房中隔を経て僧房弁に到達し、「クリップ」で弁をつかんで引き合わせることにより、逆流量を減らすというもの。胸を切開する従来の心臓手術よりも、カテーテルを使ったこの治療では体にかかる負担が少ないため、年齢や合併症(心機能低下などの臓器障害)などのために、これまで手術を断念されていた症例に対しても治療が可能とされていた。海外でのランダム化比較試験(EVEREST II)では、AVJ-514は従来の開胸手術と同等の弁逆流、心不全(NYHA重症度分類)の改善が得られたことが報告されている。
同チームは今回、重度の僧帽弁閉鎖不全症で心不全を繰り返す開心手術が困難な80歳台男性に対して、AVJ-514によるカテーテル治療を行った。僧帽弁逆流の程度は重度から軽度に改善し、国内第一例となる治験に成功したという。今回の症例を手始めに、外科的治療が困難な重症僧帽弁閉鎖不全症例に対して、より低侵襲なカテーテル治療の有効性・安全性が、日本においても明らかにされることが期待される。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース