医師主導治験、9例すべて生存という成績で国内承認を取得
東京大学は8月29日、小児用補助人工心臓「Berlin Heart Excor(以下、Excor)」の医師主導治験の主幹施設として、9例の国内治験を統括し、極めて優れた成績をもって国内承認を得たことを発表した。この研究は、同大学医学部附属病院心臓外科が中心となって行われたもの。治験成績と承認後の説明に関して、東京大学医学部附属病院心臓外科の小野稔教授が、同日で会見を行った。
今回の治験の平均補助期間は250日を越え、全例が生存するという画期的な結果をもって承認されたという。これまで小児において1か月を越える長期にわたる補助が可能な循環補助システムは日本にはなく、長期にわたる安定した補助を行って国内で心臓移植を受けられるようになると期待される。また、長期の循環補助を行いながら、薬物や再生医療などを付加することによって、患児自身の心機能が回復する症例も期待されている。
長期補助を可能とする循環補助システムとしては国内初
日本では2010年7月の臓器移植法改正後から、小児においても国内で心臓移植を受けることが可能となっていた。しかし、脳死ドナーが極めて限られた状況では、2年を超える長期の待機期間を安全に乗り越えなければ心臓移植を受けることは困難であったという。
米国では、2011年12月にExcorが治験を経てFDAに承認されていた。日本でも小児用補助人工心臓の必要性が強く認識され、2011年から治験が開始されることになったものの、収益性の低い装置の治験であることから、医師主導治験として2010年より治験プロトコール作成を開始していたという。
同大学では2011年から、主幹施設として大阪大学および国立循環器病研究センターで、Excorの医師主導治験を行ってきていた。この治験は、心臓移植を必要とする、あるいはそれと同等の重症の心不全の小児を対象にしたもので、当初は3例の装着で計画されていたが、日本の医療機器治験として初めてとなる人道的理由による治験症例の繰り入れ延長が認可され、最終的には9例に装着されたという。
9例のうち、一部の症例で合併症は見られたものの、全例生存という画期的な成績を維持。すでに5例が心臓移植を受け、4例は移植待機中である。同大学では3例の装着を行ったが、2例は心臓移植を完了し、1例は補助期間2年を超えて元気に院内で移植待機しているという。
Excorは、2015年6月18日、申請後わずか7か月という短期間で承認された。8月1日からは健康保険適用が認められ、治験3施設に加えて、新たな治療施設の認定作業が進められている。成人における体外式補助人工心臓治療においては、10~20%程度の患者において自己心機能が回復し、補助人工心臓から離脱できることがわかっている。今後、小児におけるExcorの治療においても、必ずしも心臓移植を行わなくても自己の心機能が回復してくる患児が出てくることが期待されるという。
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・東京大学 発表資料