不明だったMeCP2遺伝子によるmTORシグナル制御
九州大学は9月4日、同大大学院医学研究院の中島欽一教授、辻村啓太特任助教らの研究グループが、自閉症やてんかん、失調性歩行、特有の常同運動(手もみ動作)を主徴とする進行性の神経発達障害であるレット症候群の原因遺伝子であり、さまざまな精神疾患との関連が指摘されているMeCP2遺伝子が、細胞内の遺伝子発現制御において重要な役割を持つマイクロRNA(miRNA)の生成過程を促進することを世界に先駆けて発見したと発表した。
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この研究は、同志社大学の高森茂雄教授、国立精神神経医療センターの伊藤雅之室長、立命館大学の深尾陽一郎准教授らと共同で行われたもの。研究成果は、国際学術雑誌「Cell Reports」オンライン版に9月3日付で掲載されている。
X染色体上に存在するMeCP2遺伝子の変異は、自閉症スペクトラム障害のひとつであるレット症候群の原因となるだけでなく、自閉症、双極性障害、認知障害、統合失調症患者にも認められ、種々の発達障害・精神疾患に関与することが指摘されている。一方で、発達障害を含めた種々の精神疾患の発症には、mTORシグナルの制御不全が深く関与することが示唆されており、レット症候群およびモデルマウスにおいても、このmTORシグナルの減弱がみられることが相次いで報告されている。しかし、MeCP2がどのようにmTORシグナルを制御しているのかは明らかにされていなかった。
精神疾患・発達障害の発症メカニズムの解明に期待
今回、研究グループは、これまで知られていないMeCP2の機能が存在する可能性を考慮し、プロテオミクス技術や次世代シークエンス技術を用いた網羅的な解析から、MeCP2がmiRNAマイクロプロセッサーであるDrosha複合体と会合して、特定のmiRNAの生合成(プロセシング)を促進することを発見した。
さらに、MeCP2標的miRNAとしてmiR-199aを同定することに成功。このmiR-199aが種々の精神疾患に深く関わるmTORシグナルを正に制御すること、遺伝学的にmiR-199aの発現を減少させたマウスではMeCP2欠損マウスに類似した表現型を示すことを明らかにしたという。
この研究成果は、正常な脳の発達および機能には、MeCP2によるmiR-199aを介したmTORシグナルの制御が重要であることを示している。今後、幅広い精神疾患・発達障害の発症原因の解明や新たな治療薬開発につながると期待される。
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