KIF3Aの「荷積み」の制御機構を初めて示す
東京大学は9月3日、同大大学院医学系研究科分子構造・動態・病態学寄付講座の廣川信隆特任教授らの研究グループが、神経活動を抑制するとKIF3Aがリン酸化され、KIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」することで、N-カドヘリンのシナプスへの輸送が増加することを初めて示したと発表した。
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神経細胞内ではさまざまなタンパク質が機能しているが、これらのタンパク質が適切な場所で機能するためには、キネシンによる細胞内輸送が不可欠だ。N-カドヘリンは、シナプスの結合強度を調節するタンパク質の1つで、キネシンの一種「KIF3A」によって運ばれているが、どのようにその輸送が制御されているかは不明だった。特に、キネシンのモーター活性および「荷降ろし」の制御機構は過去にいくつかのモデルが提唱されていたが、「荷積み」の制御機構はほとんど不明だったという。
記憶力の低下を伴うさまざまな病態、状況の改善法開発への応用に期待
研究グループは、KIF3Aのリン酸化部位を新規に同定し、PKAとCaMKIIaというキナーゼによってリン酸化されることを確認した。次に、KIF3Aのリン酸化によってスパインが巨大化し、逆に非リン酸化によってスパインが収縮するというシナプス強度の変化を示唆する現象を観察。このような差が生じた原因は、リン酸化によってKIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」し、シナプスへと輸送しているからであるということを突き止めたという。
さらに、神経活動を抑制したときに、このKIF3Aのリン酸化およびそれに伴うN-カドヘンリンの輸送が増加していることを示した。以上の結果から、神経活動を抑制するとKIF3Aがリン酸化され、KIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」し、シナプスへと運ぶことにより、シナプス強度を調節しているというモデルを提唱。これは、神経活動依存的なキネシンのリン酸化による「荷積み」を行う制御機構を初めて示したものだという。
今回、記憶の固定を担うシグナル伝達経路の一端を新たに解明したことから、記憶力の低下を伴うさまざまな病態、状況の改善法開発への応用が期待できるとしている。
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