iPS細胞由来T細胞療法の副作用を薬剤で制御することにも成功
東京大学医科学研究所は8月28日、同研究所附属幹細胞治療研究センターの中内啓光教授、日本学術振興会の安藤美樹特別研究RPDらの研究グループが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の技術を応用して若返らせたヒトの免疫細胞(T細胞)が、マウスの体内で標的の腫瘍を効果的に縮小させることを確認したと発表した。
画像はリリースより
さらに同研究グループは、使用するT細胞に薬剤で細胞死を誘導できる自殺遺伝子を組み込むことにより、iPS細胞由来T細胞療法の安全性を高めることにも成功したという。
研究グループは、2013年にiPS細胞から免疫細胞の一種であるキラーT細胞を若返えった状態で作り出す技術の開発に成功している。しかし、この技術をより安全に臨床に応用するためには、iPS細胞ががん化した場合や副作用が生じた場合に、これらを制御できる必要があった。
有効で安全な免疫細胞治療へ大きな一歩
今回、同研究グループは試験管の中だけでなく、マウスの体内においてもこれらの若返ったキラーT細胞が効果的に腫瘍を縮小させることを実験的に証明。さらに細胞の自殺を促すiCaspase9(iC9)という遺伝子をiPS細胞に組み込み、そのiPS細胞から若返ったキラーT細胞を作製することに成功した。
このT細胞は、iPS細胞に由来しない通常のキラーT細胞に比べて、マウス体内に移植した腫瘍を効果的に縮小させる効果が見られ、腫瘍を移植したマウスの生存期間も延びることが判明。また特定の薬剤を投与することにより、iPS細胞由来T細胞の細胞死を誘導できることも確認し、副作用が現れた際にはこの薬剤を投与することによって、症状を止めることができることを確認したという。
今回の研究によってiC9の細胞死誘導システムをiPS細胞由来ウイルス特異的キラーT細胞療法に応用し、iPS細胞由来T細胞療法のあらゆる過程でおこりうる副作用をコントロールできるシステムを構築することができた。また、このシステムで作製したiPS細胞由来キラーT細胞の体内での抗腫瘍効果も確認できたため、今後安全で有効なiPS細胞由来T細胞療法の実現化への橋渡しとなることが期待される。また、同安全装置は他のiPS細胞やES細胞を利用した細胞療法一般にも応用可能であり、より安全な再生医療の実現に貢献すると、研究グループは期待を寄せている。
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・東京大学医科学研究所 プレスリリース