ベーリンガーが記者発表会を開催、東邦大・本間教授、自治医大・杉山教授が講演
特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)は慢性かつ進行性の経過をたどり、最終的には死に至る肺線維化疾患。肺組織の進行性の瘢痕化と経時的な呼吸機能の低下を特徴とし、時間経過と共に組織が肥厚・硬化する。これにより肺の機能が失われ、十分な酸素が主要臓器に行き渡らなくなる。IPF患者の有病率は、世界で10万人あたり14~43人と推定され、日本国内の患者数は推定13,000人と言われている。
東邦大学 本間栄教授(右)
自治医科大学 杉山幸比古教授
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社は8月31日、チロシンキナーゼ阻害剤/抗線維化剤「オフェブ(R)カプセル100mg、同カプセル150mg」(一般名:ニンテダニブエタンスルホン酸塩)をIPFの効能・効果で発売したと発表した。
同剤はIPFの治療を目的として同社が開発した、同疾患の治療薬としては7年ぶりの新薬であり、初の分子標的薬。肺線維症の発症機序への関与が示唆されている増殖因子受容体、特に血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)という3つの受容体を標的とする。
オフェブの発売に先駆け、日本ベーリンガーインゲルハイムは8月20日、記者発表会を開催。東邦大学医学部医学科 内科学講座呼吸器内科分野教授の本間栄氏、自治医科大学呼吸器内科教授の杉山幸比古氏が講演した。
2つの抗線維化薬の使い分けが今後の課題
慢性かつ進行性の線維化を伴う原因不明の間質性肺炎のひとつであるIPF。初期には、“からぜき”や息切れなど他の肺疾患にもよく見られる症状が現れるが、ひとつの特徴として80%超の患者でベルクロラ音(捻髪音)が検出される。また、太鼓の「ばち」のように指が変形する「ばち状指」も25~50%の患者で認められるという。予測不能かつ多様な臨床経過をたどり、生存期間の中央値は診断から3~5年と短い。びまん性肺疾患の中では「一番治療抵抗性がある難病」と本間氏は語った。
近年の研究により、IPF治療はステロイド剤や免疫抑制剤などによる抗炎症薬から抗線維化薬による治療へと変化。2008年にはピルフェニドンが導入され、「現在は抗線維化薬の時代になった」と杉山氏は語る。そこに7年ぶりのIPF治療薬として登場したのがニンテダニブ(オフェブ)だ。
25か国で行われた第2相試験「TOMORROW試験」では、高用量の150mg1日2回群で主要評価項目である努力性肺活量(FVC)の経年減少率を、プラセボ群と比べて68.4%抑制。副次評価項目の急性増悪の発生も優位に低下した。この良好な結果を受け、第3相試験「INPULSIS-1」「INPULSIS-2」を実施。この2つの第3相試験でも一貫して主要評価項目であるFVCの年間減少率をプラセボに比べて統計学的に有意に抑制することが示され、中央判定された急性増悪の発現リスクも抑制されたという。
これらの結果から杉山氏はオフェブについて「重症はもちろん、軽症でも進行するようなIPF患者、つまり幅広い患者に治療対象が拡大し、急性増悪抑制の可能性もある。今年の7月に改訂された欧米のガイドラインでは、ニンテダニブとピルフェニドンが『conditional recommendation』(適応があれば使用すべき)として推奨されており、高い評価を得ている」とコメント。また今後のIPF治療については「ニンテダニブとピルフェニドンの使い分けと併用、NAC(ムコフィリン)との併用が考えられる。がんの併用療法のように、IPFも併用療法を視野に入れていかなければならない」と、展望を述べた。
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・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 プレスリリース