不明だった神経突起を分別するタンパク質と分別の仕組み
理化学研究所は8月28日、同脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダーと神経膜機能研究チームの平林義雄チームリーダー、東北大学大学院薬学研究科の青木淳賢教授、東京大学大学院総合文化研究科の太田邦史教授らの共同研究グループが、異なる種類の感覚を伝える神経突起を分別して、その行き先を制御する新たな脂質を発見したと発表した。研究成果は、米科学雑誌「Science」8月28日号に掲載された。
画像はリリースより
人間の感覚の代表的なものに、皮膚で痛みを感じる「痛覚」や自身の関節の位置や動きを感じることのできる「固有感覚」がある。これらの感覚を伝える神経突起は、脊髄内の特定の部位を通り、最終的には脳へ投射される。異なる種類の感覚を伝える神経突起が、それぞれ脳脊髄の異なる部位へ投射するため、我々は感覚の種類を識別することができる。
脳脊髄の神経回路が作られる段階で、痛覚と固有感覚を担う神経突起は同じ経路を通って脊髄へ到達するが、脊髄に入った直後にこれらの神経突起は分別され、混線することなくそれぞれの目的地へ誘導される。この神経突起を分別するタンパク質はこれまで見つかっておらず、分別の仕組みは明らかにされていなかった。
損傷した神経回路の修復技術の開発などに繋がる可能性も
研究グループは、この神経突起の分別の仕組みは、脂質によって制御されていると仮定。しかし脂質の解析手法は、合成・定量・局在解析・抗体作製・機能阻害のすべてが技術的に困難であるため、異分野の研究者からなる共同研究グループを立ち上げて同仮説の検証を進めた。
その結果、神経突起の分別を担う新たな脂質「リゾホスファチジルグルコシド」を発見。リゾホスファチジルグルコシドは、脊髄内の固有感覚の神経突起が通る特定の部位にのみ存在し、痛覚の神経突起を反発することで、両方の神経突起は混ざり合うことなく別の目的地へ投射することが分かったという。また神経突起の表面に存在してリゾホスファチジルグルコシドを感知するGタンパク質共役受容体も特定した。
同研究は「脂質が神経回路の構築を制御する」という新原理を明らかにし、これに伴い損傷した神経回路の修復技術の開発が進むことが期待される。また、タンパク質の働きのみでは説明不可能な生命現象に対する研究の成功例であり、脳科学における新たな研究分野の開拓が期待できるとしている。
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・理化学研究所 プレスリリース