Arf6シグナル伝達系を標的とした新たな抗がん剤の開発へ
筑波大学は8月25日、遺伝子改変マウスを用いた解析を行い、血管内皮細胞に発現する低分子量G蛋白質Arf6が、腫瘍血管新生において重要な役割を果たしており、腫瘍の成長に深く関わっていることを明らかにしたと発表した。これは、同大学医学医療系の本宮綱記助教、船越祐司助教、金保安則教授らの研究グループと、国立循環器病研究センター研究所の福原茂朋室長・望月直樹部長の細胞生物学グループほかとの共同研究によるもの。なお、この研究の成果は8月4日付で、オンライン科学雑誌「Nature Communications」に公開されている。
画像はリリースより
腫瘍の成長には、血液からの酸素や栄養素の供給が不可欠だ。そのため、がん細胞は血管誘導因子を放出することで、周囲の既存血管から毛細血管を新生させて腫瘍に進入させる「腫瘍血管新生」を誘導する。腫瘍血管新生の抑制により腫瘍の成長を阻害できるため、現在までにさまざまな腫瘍血管新生阻害剤が開発されてきた。しかし、現在臨床応用されている腫瘍血管新生阻害剤はその治療効果が限定的であり、より効果的な抗がん剤の開発が必要とされている。
腫瘍血管新生とがん転移を同時に阻害する抗がん剤開発の可能性も
同研究グループは、細胞内小胞輸送や細胞運動を制御する低分子量G蛋白質のArf6に着目。血管内皮細胞のArf6遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルの解析により、Arf6が腫瘍血管新生に重要な役割を果たすことを明らかにした。
さらに、Arf6は、がん細胞が分泌する肝細胞増殖因子(HGF)により誘導される腫瘍血管新生を制御していることが判明。さらに、HGFシグナルの下流ではGrp1と呼ばれる蛋白質がArf6の活性化に寄与しており、活性化したArf6は接着分子であるb1 integrinの細胞膜への輸送を制御することで腫瘍血管新生に関与することを明らかにしたという。
今回の研究で得られた知見は、Arf6シグナル伝達系を標的とした新たな腫瘍血管新生阻害剤の開発に繋がることが期待される。また、Arf6は乳がん細胞にも発現しており、がん転移に重要な役割を果たしていることが報告されている。この報告と今回の研究で得られた研究結果から、Arf6シグナル伝達系をターゲットにして、腫瘍血管新生とがん転移の両者を同時に阻害できる革新的な抗がん剤の開発に繋がる可能性があるという。今後は、このような革新的な抗がん剤の創成を目指して、研究を展開して行く予定だとしている。
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・筑波大学 プレスリリース