ウシ体細胞から全能性を有するiPS細胞株を樹立
京都大学は8月20日、同大学院農学研究科・今井裕教授らの研究グループが、ウシにおいて生殖系列の細胞を含むすべての組織・器官に分化する人工誘導多能性幹(iPS)細胞株の作製に成功したと発表した。
画像はリリースより
これまでマウスでは、ES細胞やiPS細胞から、正常胚とのキメラ形成を介して、生殖系列細胞や組織・器官形成へと細胞分化を誘導し、これら多能性幹細胞の遺伝的バックグランドを次世代に伝えることが可能となっている。しかし、マウス以外の哺乳動物で多能性幹細胞を作製しようとすると、マウスの細胞株とは異なった形態と性質をもつ細胞株が樹立されることがわかっていた。
家畜のように、多能性幹細胞を個体の再構築に利用しようとする場合には、マウスで樹立されているナイーブ型の細胞株が必要になってくるが、1981年のマウスES細胞の樹立以降、家畜におけるナイーブ型細胞株の樹立には成功していなかった。
さまざまな動物種での個体形成能を有する多能性幹細胞株樹立の糸口に
今回の研究では、ウシ妊娠胎仔より得られた羊膜細胞にマウス由来のOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycの4種類の多能性関連転写遺伝子をpiggy Bacベクターを用いて導入。その発現を制御できるベクターの利用によってプライムド型のみならず、ナイーブ型のウシiPS細胞株を樹立することに成功した。両者タイプの細胞株は、培養液に加える細胞分化抑制因子とサイトカインの種類を変更することによって、自在に細胞タイプを変えることが可能になったという。
同研究成果によって、マウス以外の哺乳動物種である家畜で個体を構成するすべての組織に分化するウシ幹細胞が得られたことは、今後、ウシ以外のさまざまな動物種での個体形成能を有する多能性幹細胞株樹立の糸口が提供されたと共に、家畜改良、希少種・絶滅危惧種の保全、医学領域へのトランスレーショナルリサーチなどへ、この幹細胞株を応用する道が開かれたと考えられる。
なお同研究成果は、米科学誌「PLOS ONE」オンライン速報版に8月19日付で公開されている。
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・京都大学 研究成果