コオロギを用いて刺激に関する神経細胞のメカニズムを検証
北海道大学は8月20日、古い刺激と新しい刺激を区別する神経細胞メカニズムを解明する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院理学研究院生物科学部門行動神経生物学分野の小川宏准教授らによるもの。研究成果は、「The Journal of Neuroscience」に8月19日付で掲載されている。
画像はリリースより
動物にとって、新しい刺激だけを検出し、それに注目することは、生存に関わる重要な課題であるが、人間が「古い」刺激と「新しい」刺激をどのように感じ、区別しているのかは未解明な部分が多かった。
繰り返される刺激に対して特異的に神経応答が弱くなる刺激特異的順応(Stimulus-Specific Adaptation:SSA)と呼ばれる現象は動物の脳神経系に広く見られるものの、それがどのような神経細胞のメカニズムによって起こるのか、細胞レベルのSSAが動物個体の行動変化にどのように関連するのかはわかっていなかったという。研究グループは、コオロギを用いて、この脳機能の謎に挑んだ。
気流の方向を手がかりに、新しい刺激と古い刺激を区別
研究グループはまず、コオロギに同じ方向から繰り返して気流を与えて刺激した時、別の方向からの気流には、反復刺激の気流よりも大きく反応することを発見した。同様の刺激は、気流逃避行動を司る巨大介在ニューロンの応答を減少させ、かつ方向感受性(どの方向により大きく反応するか)を変化させた。薬理実験とカルシウムイメージング実験の結果、巨大介在ニューロン内において反復刺激の情報が入力する個所で集中的にカルシウム上昇が起こり、それに対する応答を特異的に減弱させることがわかったという。
これらの成果から、1つの神経細胞がどのようにして「古い」刺激と「新しい」刺激を区別しているのかを明らかにするだけでなく、その細胞が関与する実際の動物の行動にも現れていることが示された。人間のような哺乳類の脳は膨大な数の神経細胞から構成されるため、一つひとつの細胞が区別するのではなく、「新しい刺激専用回路」と「古い刺激専用回路」を並列して動かしている可能性もあるという。
この研究は今後、小さなロボットや省資源化したコンピュータを設計する上でのヒントになるかもしれないと期待される。また、今後は各細胞の個性がどのように形成されていくのかに関して、さらに研究を進めていきたいとしている。
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・北海道大学 プレスリリース