細胞において重要な役割を果たすカルシウムイオン
東京医科歯科大学は8月14日、光を用いて効率よく細胞内カルシウムシグナルを自在に操作する技術を開発したと発表した。この成果は、同大大学院医歯学総合研究科 細胞生物学分野の石井智浩助教、中田隆夫教授の研究グループと、岡崎統合バイオサイエンスセンター、東京大学との共同研究によるもの。国際科学誌「Nature Communications」のオンライン版に8月18日付で掲載されている。
画像はリリースより
カルシウムイオンは、ほとんど全ての細胞において重要な役割を果たす細胞内シグナルで、受精、細胞分裂、遺伝子発現、細胞移動、分泌、神経活動、免疫、筋収縮、細胞死など多様な細胞機能を制御している。この役割を詳細に調べるために、特定の時間、特定の細胞局所においてカルシウムシグナルを効率良く誘導する技術の開発が求められていた。
光は細胞へのダメージが少なく、時間的・空間的に自在に操作できることから、光によりカルシウムシグナルを誘導する人工タンパク質がこれまでにも報告されているが、カルシウムシグナルの誘導効率が高くないことなどを大きく改善する必要があった。
培養細胞・動物個体の両方に利用できることを確認
植物由来のタンパク質フォトトロピン1は、植物の茎などが光の方向に曲がる光屈性を制御していることが知られている。フォトトロピン1の光感受性ドメイン(LOV2)は青色光を照射することで構造変化を起こすことから、光スイッチとして利用することが可能だ。
また、ヒトやショウジョウバエなどに存在するカルシウム選択的イオンチャネル(Orai)のチャネル開閉を制御する分子としてStimタンパク質が知られていた。これらの知見を合わせて同研究グループでは、LOV2とStimの融合タンパク質を作製することで、青色光によりStimタンパク質の機能を制御する光スイッチ「BACCS」を作製した。
さまざまな研究の結果、BACCSは青色光により簡便に早く大きなカルシウムシグナルを誘導できること、そして特定の時間に特定の場所でカルシウムシグナルを誘導できること、さらに培養細胞・動物個体の両方に利用できることが確認できたという。
今回の研究で青色光により細胞内カルシウムシグナルを自在に操作することが可能となり、糖尿病等の内分泌に関わる疾患や、高血圧・動脈硬化などの平滑筋収縮に関わる疾患などの研究にも応用できる可能性がある。BACCS がさまざまな生命科学の研究の発展に貢献することを期待したい、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース