ジアシルグリセロールの非対称な産生を観察
理化学研究所は8月17日、理研小林脂質生物学研究室の小林俊秀主任研究員および上田善文客員研究員らの研究チームが、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を基にしたジアシルグリセロール(DAG)蛍光プローブを用いることで、細胞内膜の裏側(外層:ルーメン側)のDAGを、表側(内層:細胞質側)のDAGとは独立かつリアルタイムに観察することに成功したと発表した。この研究は、英オンライン科学雑誌「Scientific Reports」に8月12日付で掲載されている。
画像はリリースより
細胞膜をはじめとした脂質二重膜の表裏では、その脂質組成は非対称だ。細胞は、この非対称性を巧妙に利用してアポトーシスや細胞の凝集などの細胞応答を制御する。機能性脂質分子の一種であり、異常な増加によってがんやアルツハイマー病などを引き起こすDAGは、細胞内膜の細胞質側とルーメン側に存在するため、両方の動態を明らかにすることが求められていた。しかし、従来の手法では、ルーメン側のDAGを観察することは不可能だったため、新たな測定手法の開発が求められていた。
がんやアルツハイマー発病の解明に寄与する可能性
今回、研究チームは、ルーメン側に局在するp24タンパク質の膜局在ドメインをプローブに連結した「Daglas-lum」というプローブを開発し、ルーメン側のDAGを観察することに成功。具体的には、細胞内でカルシウム濃度が上昇するとルーメン側でDAGが産生されることが分かったという。
一方、同じ測定条件下では、研究チームが既に作製していた細胞質側のDAGを観察するためのプローブである「Daglas-em」には変化がなかった。これは、カルシウム濃度上昇によって、細胞内膜の細胞質側とルーメン側とで非対称なDAG産生が起きたことを意味し、生体がDAGの非対称な産生を利用して、さまざまな細胞応答を制御している可能性を示唆するものだという。
またDAGの上昇は、がんやアルツハイマー病に関与する可能性があり、今後、細胞質側だけでなくルーメン側のDAGの動態を詳細に調べることで、更なる病気の仕組みの解明につながると期待される。今回の結果から小胞体内やゴルジ体にDAGと結合するタンパク質が存在することも示唆されると、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース