ほとんど解明されていなかったオリゴマーの実体と分子メカニズム
京都大学は8月14日、アルツハイマー病の脳で起こる神経細胞死の新たなターゲット分子を発見したと発表した。この研究は、同大学の星美奈子医学研究科特定准教授(兼先端医療振興財団客員上席研究員)ら研究グループによるもの。研究成果は米国科学アカデミー紀要「PNAS」の電子版に、7月27日の週に掲載された。
画像はリリースより
認知症の約6割を占めるアルツハイマー病では、神経細胞のシナプスにまず異常が起こり、最終的には神経細胞自体が失われることで脳の高次機能が低下することが知られている。最近の仮説では、この神経細胞の傷害は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる小さいタンパク質が、凝集し「Aβオリゴマー」と呼ばれる集合体を作ることで神経細胞に対する毒性を持つためと考えられてきた。しかしながら、神経細胞死の原因となるオリゴマーの実体と、その分子メカニズムはほとんど解明されていなかったという。
ASPDとNAKα3との相互作用を阻止し、神経細胞死を抑制
研究グループは、これまでにAβが約30個集まって直径10~15nmのサイズの球状構造を取ることで強い神経毒性を持つようになることを発見し、この新たな球状構造体を「アミロスフェロイド」(amylospheroids:ASPD)と命名した。さらに、ASPDを選択的に認識する抗体を作製し、この抗体を用いることで、アルツハイマー病患者脳内からASPDを単離する方法を確立したという。
今回、神経細胞死におけるASPDのターゲットが、神経の生存と機能に極めて重要な役割を果たしているシナプスタンパク質「Na+、K+-ATPaseポンプのα3サブユニット(NAKα3)」であることを初めて発見した。加えて、ASPDに結合する4アミノ酸のペプチドを発見し、このASPD結合ペプチドがASPD表面を覆い隠すことで、ASPDとNAKα3との相互作用を阻止し、神経細胞死を抑制することができることも発見した。ASPD結合ペプチドの分子サイズは低分子化合物に匹敵するほど小さいという。
今回、神経細胞死の分子メカニズムが解明されたことにより、アルツハイマー病で起こる神経細胞死に対する新しい治療法の開発に繋がることが期待される。
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・京都大学 研究成果