■臨床研究の成果まとまる
地域の医療機関と連携し、薬局薬剤師が患者にコーチングを行うことによって糖尿病性腎症の重症化予防を目指した臨床研究「PHONDスタディ」の研究結果がまとまった。薬局薬剤師が定期的な面談や電話でかかわった結果、多くの糖尿病患者が食事や運動などの生活習慣の改善に取り組むようになった。また、HbA1c値がもともと高い患者では、支援開始後、その値が低下する傾向が認められた。医薬コンサルティングを手がけるマディアや北里大学薬学部などのグループが研究を実施し、長崎県対馬市を皮切りに、国民健康保険の事業などにこの枠組みを採択する自治体が複数出てきた。
この臨床研究は、薬局薬剤師のコーチングによって糖尿病の進展抑制や医療費低減が確認された米国のアッシュビルプロジェクトを参考に立案されたもの。第1段階の研究は2013年1月から14年8月まで、東京都多摩地区の糖尿病専門医クリニックと近隣薬局間で実施。第2段階の研究は、東京都中野区と多摩地区の医師会、薬剤師会の協力のもと対象を非専門医クリニックと近隣薬局に拡大し、経済産業省の補助事業として13年10月から15年5月まで実施した。それぞれ18人、20人の糖尿病患者が参加した。
北里大学薬学部の厚田幸一郎教授、井上岳講師、米国アイオワ薬剤師会の協力を得てマディアは、コーチング支援プログラムを作成。それに沿って薬局薬剤師は、主治医から指示された自己管理を患者が実践できるように、12カ月間にわたってかかわった。開始後2カ月間に平均30~40分間の面談を3回実施し、2回電話をかけた。3カ月目以降は主に1カ月に1回、面談か電話で対話した。
薬局薬剤師は、面談や電話を通じて、食事、運動など生活習慣改善の目標設定を支援した。また、主治医の指示を実践する上での課題や不安などを聴き、対応を話し合った。目標達成経験を通じて自己効力感を高め、病気に挑む気持ちを引き出した。主治医と薬局薬剤師は、自己管理支援内容と実施状況を共有した。
薬剤師のコーチングによって、食事、運動、服薬、飲酒、喫煙など様々な生活習慣の改善目標がどの程度達成されたのかを評価したところ、第1段階での達成率(中央値)は100点満点中80点(12カ月時点)、第2段階は68点(6カ月時点)と高い値が得られた。参加した患者の満足度も高く、本人希望や入転院で脱落した5人を除いた33人で、薬局薬剤師の6カ月間の支援を継続できた。
副次評価指標としてBMI、HbA1c、血清CR値、eGFRの変化を評価した結果、全体的には有意な変化はなかったが、開始時にHbA1c値が7.0を超える22人では、支援開始3カ月後、6カ月後、12カ月後のいずれでも約80%の患者において改善、維持が認められた。
この枠組みは、長崎県対馬市の「糖尿病重症化予防プログラム」に採択され、14年10月から事業が始まった。対馬市から委託を受けた総合メディカルがマディアと協力して実施。薬局薬剤師は月に1回、糖尿病患者に30分~1時間の面談を行い、主治医の指示に基づく食事、運動などの行動目標の実践を支援している。14年度は20人枠のうち12人に実施、15年度は25人を対象に進行中だ。
長野県松本市でも同様の事業が8月から始まった。マディアの支援のもと、松本市が主体となり、松本市の医師会、薬剤師会と連携して実施する。15年度は25人の糖尿病患者を対象に行う。16年度も事業は継続される見通しだ。
福島県福島市蓬莱地区でも間もなく、糖尿病の重症化予防に加えて認知機能低下の早期発見を薬局薬剤師が担う事業が、マディアの支援のもと始まる計画だ。経産省の15年度健康寿命延伸産業創出推進事業として、NPO法人の「NPOほうらい」が中心となるコンソーシアムで実施されるもの。福島県立医科大学、地域の診療所、福島県薬剤師会の会営薬局など2薬局が参加する見込みだ。