厚生労働省は12日、遺伝子治療の臨床研究に当たって、医療上の有用性や倫理性を確保するための「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」を告示した。遺伝子治療の対象に、疾病の治療だけでなく予防を目的とした行為を加えた上、癌や重篤な遺伝性疾患だけでなく、慢性疾患など幅広い疾病が対象となるよう研究対象の要件を変更した。新指針は10月1日から施行される。
新指針は、大学等で臨床研究が適正に実施されてきたことを踏まえ、厚労省が文部科学省との共同指針を廃止し、遺伝子治療に関する考え方や審査方法自体を見直す指針を新たにまとめたもの。
それによると、遺伝子治療を「疾病の治療や予防を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞をヒトの体内に投与する行為」と位置づけ、医療上の有用性などを確保しつつ、審査手続きの効率化が図れるよう研究体制の整備を求めている。
遺伝子治療の研究対象となる疾患についても、パーキンソン病などの重篤な遺伝性疾患や癌、後天性免疫不全症候群(エイズ)など、生命を脅かす疾患や身体の機能を著しく損なう疾患のみとした要件を削除した上で、新たに「治療・予防効果が現在可能な他の方法に比べて同等以上と予測されるもの」「治療によって得られる利益が不利益よりも大きいもの」を要件とし、慢性疾患など幅広い疾患が対象となるように変更を行った。
審査体制では、臨床試験に関する業務を総括する研究責任者を設置し、研究計画書を策定すると共に、必要に応じて研究者に研修等を行うよう求めた。
また、多施設共同研究を実施する場合、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」など他の研究指針と整合性を図り、一つの倫理審査委員会に一貫した審査を求めることができるよう規定を変更した。
一方、新指針では、癌治療に使用される「腫瘍溶解性ウイルス」の臨床試験を対象としないこととしたが、倫理審査委員会等の要望に応じて、国が臨床研究の安全性等の評価を行えるよう整備していく方針を盛り込んだ。
厚労省は、臨床研究の増加や最近改正された研究指針との整合性、諸外国での研究動向などを踏まえ、2011年から専門家会議を立ち上げ、旧指針の見直しを検討していた。