精神科外来を初診した子どもの幻聴体験に関する研究成果を発表
神奈川県立こども医療センター(KCMC)は8月12日、同センター児童思春期精神科の藤田純一医長らのグループが行った精神科外来を初診する子どもの幻聴体験に関する研究成果を発表した。同研究成果は、科学雑誌「Schizophrenia Research」オンライン版に7月28日付けで掲載されている。
画像はリリースより
国内において10代の死因の第1位は自殺で、その一因として精神疾患の存在が少なからず存在している。精神医療関係者は自殺念慮を抱く子どもに出会うことは稀ではなく、そのリスクを把握し、予防的に支援することが求められている。
一般の中高生を対象とした疫学研究からも、幻聴体験は統合失調症などの精神病性疾患に限らず一般人口の約8%に存在し、自傷行為や自殺企図などの自殺関連事象のリスクと関連があることが示唆されてきた。しかし、実際に精神科外来に初診する子どもの患者において、幻聴体験のある人の割合やそれによって自殺リスクが高まる程度を調査した臨床的な研究は、世界的にも限られていた。
自殺リスクの適切な評価には幻聴体験の評価も必要
今回、研究グループは、同センターと横浜市立大学附属市民総合医療センター児童精神科において、2010~2012年にかけて横断研究を実施。10~15歳で、知的障害を有さず、自己記入式の質問票に回答が可能かつ、何らかの精神科診断に該当する608名の初診患者を対象に分析、抑うつ症状の有無と幻聴体験の有無によって自殺リスクの程度を検討した。
その結果、患者の13%が「過去2週間以内に他の人には聞こえない声を聞いたことがある」と回答。31%に自殺念慮、さらに12%には自殺企図があると回答した。これらを分析した結果、608名の患者のうち、幻聴体験のある人は、ない人に比べて自殺念慮を抱いている可能性が3.4倍高く、さらに抑うつ症状のある人はない人に比べて、自殺念慮を抱いている可能性が3.9倍高いことが明らかになった。
また、自殺ハイリスク者である自殺念慮を抱く188名のうち、幻聴体験のある人はない人に比べて、自殺企図の経験を有している可能性が3.4倍高いことも明らかとなった一方、抑うつ症状の有無により、自殺企図の経験を有している可能性は変わらなかったという。
これらの結果により、幻聴体験は自殺念慮に関連するだけでなく、自殺念慮を抱く子どもの自殺企図にも関連する可能性が示唆された。自殺念慮を抱く子どものその後の自殺リスクを適切に評価するために、精神医療の関係者は、抑うつ症状だけでなく、幻聴体験も評価する必要性がある、と同研究グループは述べている。
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