細胞の機能を制御できるさまざまな人工回路を構築
京都大学は8月5日、RNAを細胞に導入することで機能する人工回路の開発に成功したことを発表した。この研究は、東京大学新領域創成科学研究科の遠藤慧研究員(元京都大学iPS細胞研究所(CiRA)研究員)と齊藤博英CiRA教授らの研究グループ、マサチューセッツ工科大学のロン・ワイス教授との共同研究によるもの。研究成果は専門誌「Nature Biotechnology」に8月4日付けで掲載されている。
画像はリリースより
これまで、DNAとDNAに結合するタンパク質(転写因子)を用いた人工回路は作成されてきたが、DNAを導入することでゲノムDNAを傷つける可能性があり、医療応用が難しいという課題があった。
そこで研究グループは、安全性の高い人工RNAをヒト細胞に導入し、RNAとRNA結合タンパク質を利用した、転写後の調節を基本とした人工回路の作成に取り組んだ。その結果、細胞の状態を識別し、その状態に応じて細胞運命を制御できる回路、情報を増幅できる多段階のシグナル伝達回路、遺伝子の発現をスイッチできる回路などを開発したという。
がん細胞のみ細胞死に導くことにも成功
今回の研究で構築に成功した人工RNAを用いた回路は、決められた期間のみ機能させることができ、ゲノムDNAを傷つけるリスクが低いという利点がある。さらに、人工mRNAやレプリコンの発現量や機能させる時間を変化させることで、より多層的な回路デザインが可能となる。人工mRNAにより特定の細胞を識別して細胞死を起こす回路は、設計が簡単な上に、RNAが一時的に細胞内にとどまった後に分解され、ゲノムDNAを傷つけることなく安全性も高いとされる。
さらに、人工RNAをシャーレ上で培養中の細胞内に導入し、がん細胞のみ細胞死に導くことに成功。精密に細胞内の状態を検知し、その運命をコントロールできるため、細胞内状態に応じたがん細胞の識別・除去、個々の細胞に応じたプログラミング、分化制御などが想定されるという。
これらの人工回路を組み合わせることで、安全かつ精密にヒト細胞の運命を操作できることから、将来の医療応用に期待が寄せられる。
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・京都大学 研究成果