蚊の活動が活発化する季節を迎え警鐘を
2014年8月、69年ぶりに国内感染が発見され、最終的に160人もの患者が発生したデング熱。同年の10月末以降に新規患者発生は報告されていないが、今年も媒介する蚊の活動の活発化や国外からの渡航者増加の時期に差し掛かっているため、警戒が必要となっている。
そこで先頃、国立感染症研究所主催のシンポジウムで報告された昨年のデング熱の流行実態や注意点をまとめてみた。
代々木公園の掲示板には蚊への注意を呼びかける張り紙が
(2015/7/29 QLifePro編集部が撮影)
デング熱の原因となるデング熱ウイルスは、1~4型の血清型に分けられ、媒介蚊のヒトスジシマカ、ネッタイシマカの2種類が高ウイルス血症を起こしている感染者を吸血し、そのまま他のヒトを吸血することで感染を拡大させる。媒介蚊のうちヒトスジシマカは屋外で活動し、ネッタイシマカは屋外・屋内ともに活動する特徴があるが、日本に生息しているのはこのうちヒトスジシマカのみである。
潜伏期間は2~14日(多くは3~7日)で、例えば1型の感染履歴による抗体があっても他の型への感染を防御できるわけではないが特徴の1つだ。
過去、日本では1931年の沖縄での流行のほか、第二次世界大戦末期の1942~45年に長崎、佐世保、福岡、広島、大阪、神戸などで感染者約20万人にものぼる大流行が発生している。大戦期の流行は当時の日本が占領した東南アジア地域からの帰還者が増加していた時期に発生していることから、典型的な輸入例と解釈されている。
1945年以降、昨年8月までの報告患者は全てが輸入例で、直前の2013年には年間249例の感染報告がある。これまで分かっている範囲では、2013年9月にドイツで報告された51歳女性の感染者が日本国内で感染した可能性が高いことが分かっているという。
この女性はドイツから直行便で2013年8月19日に来日。長野県上田市、山梨県笛吹市、広島市、京都市、東京都を訪問し、同月31日に直行便で帰国。9月3日に発熱、嘔気、紅斑丘疹性発疹の症状が発現し、9月9日にベルリンの病院に入院し、デング熱ウイルス2型の感染が判明した。潜伏期間は日本に滞在していたこと、女性が笛吹市で蚊に刺された旨を申告していることから日本国内での感染が強く疑われている。
国立感染症研究所ウイルス第一部第2室の高崎智彦室長は、ドイツの症例について潜伏期間から考えれば、最終訪問地の東京で感染した可能性が高いことを指摘。ドイツ側から昨年初に情報提供があったことを受け、頻繁にデング熱患者が発生している台湾の治療ガイドラインなどを取り寄せるなど昨夏の段階では警戒態勢に入りはじめていたことを明らかにした。
重症化は解熱傾向が認められ始めた時期、さらに2度目以降の感染で起こることが多い
昨年確認された患者は19都道府県にのぼり、全て1型でウイルス遺伝子配列はほぼ同一。このことに加え、感染起点とみられている代々木公園に生息するヒトスジシマカが膨大な数になることから、高崎室長は基本的に同公園での感染を軸にヒトの移動が加わった流行との見方を示した。
デング熱の典型的症状は38℃超の突然の発熱と頭痛、筋肉痛などの痛み、血小板・白血球の急激な減少。その他にもよく認められる症状は、悪心・嘔吐、下痢、解熱傾向とともに認められる発疹、点状出血、肝機能低下がある。このうち血小板数減少について高崎室長は「発病日ではなく、発病から数日間で起こる」とし、鑑別診断時は発病日の検査値のみに固執して診断漏れがないよう注意を促した。
デング熱ではごく一部の患者が出血症状、10万/mm3以下の血小板数減少、血管透過性亢進による血漿漏出(腹水、胸水)などを伴うデング出血熱に至り、これに循環不全を併発するとデングショック症候群に進展する。高崎室長は過去のデータから、重症化は一般に解熱傾向が認められ始めた時期、さらに2度目以降の感染で起こることが多いことを指摘。小児では初感染でデング出血熱に至るのは0.18%、デングショック症候群は0.007%にすぎないものの、再感染症例ではこの確率がそれぞれ2.01%、1.14%に上昇することを紹介した。
そのうえで「デングショック症候群では、迅速な治療を行っても死亡率は12~20%にのぼる。デング熱が疑われる場合は自宅安静にとどめず、速やかな受診を促し、必要に応じて輸液などの対症療法を行うべき」(高崎室長)と注意喚起した。
2015年になって新たな国内感染報告はないが、日本への外国人観光客や日本からの海外渡航者が増えている現状から、高崎室長はデング熱が再流行する可能性は十分にあるとして、「対策にはヒトスジシマカの駆除という1点しかない」と強調。蚊の幼虫が生育する小さな溜まり水をなくすため、放置空き缶など小さな容器に溜まった水の排除などを徹底的に行うよう提言している。
▼関連リンク
・厚生労働省 感染が拡大するデング熱の診療ガイドラインを作成
・厚生労働省 デング熱診療ガイドライン(第1版)
・国立感染症研究所 デング熱