日本人の約2%に見られる思春期特発性側彎症
理化学研究所は7月24日、思春期特発性側彎症(AIS:AdolescentIdiopathic Scoliosis)の発症に関連する新たな遺伝子「BNC2」(Basonuclin-2)を発見したと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、小倉洋二研究生らと、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の松本守雄教授ら側彎症臨床学術研究グループ、及び京都大学再生医科学研究所、広島大学大学院医歯薬保健学研究院、南京大学などによる共同研究グループによるもの。同成果は、アメリカ人類遺伝学会の機関誌「American Journal of Human Genetics」8月号に掲載されるに先立ち、7月23日付でオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
背骨が曲がる疾患である側彎症は、神経や筋肉の病気、脊椎の奇形などが原因で起きるものもあるが、その多くは原因が特定できない特発性側彎症だ。特発性側彎症の中で最も発症頻度が高いのが思春期に起きるAISで、日本人では約2%に見られる。
AISの発症には遺伝的要因が関与すると考えられ、世界中で原因遺伝子の探索が行われてきた。理研骨関節疾患研究チームは、ゲノムワイド相関解析(GWAS)を行い、AISの発症し易さ(疾患感受性)を決定する遺伝子「LBX1」、「GPR126」をそれぞれ2011年、2013年に世界に先駆けて発見している。
AISの発症機構の解明、新たな治療法の開発へ期待
今回、共同研究グループは、側彎症における世界最大規模のGWASを実施。日本人のAIS患者と非患者、13,249人の集団について、ヒトのゲノム全体をカバーする約400万個の一塩基多型(SNP)を調べ、LBX1とGPR126以外にもAISと強い相関を示す27個のSNPを見つけたという。
さらに、この結果を4,506人の別の日本人集団を用いた相関解析により確認したところ、AISの発症と非常に強い相関を示すSNPを発見。このSNPはBNC2という遺伝子内に存在し、このSNPを持つ患者に多い対立遺伝子はBNC2の発現を増加させた。このことから、BNC2の過剰発現が側弯症を引き起こすという仮説を立て、モデル動物であるゼブラフィッシュでBNC2を過剰発現させたところ、実際に側弯が起きることを確認したという。
今回の結果を受け、小倉研究生らはAISのオーダーメイド医療に向けて、発症・進行のリスクをより簡便、正確、かつ確実に予測するためのゲノム情報と臨床情報を統合したAISの診断・予測モデルの作成に、既に着手しているという。今後、BNC2の機能解析やAIS発症に関わる新たな経路をさらに詳しく調べることで、分子レベルにおいてAISの病態の理解が進み、新しいタイプのAIS治療薬の開発も期待できるとしている。
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・理化学研究所 プレスリリース