発熱をおこすPGE2が脳で産生される仕組みを明らかに
東京大学は7月22日、発熱に関わる脂質メディエーター産生の仕組みを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の北芳博准教授、清水孝雄特任教授、狩野方伸教授、新潟大学の崎村建司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「PLOS ONE」に7月21日付で掲載されている。
画像はリリースより
人間の体温は通常36~37℃に保たれているが、病原体に感染したりケガをしたりすると、体温の上昇(発熱)が起こることはよく知られている。この発熱応答は、病原体の増殖や活動を抑制するなど、正常な生体防御メカニズムの1つで、本来37℃付近に保たれるように設定された「体温の設定値」(setpoint)が、より38~40℃など高い値に変更されることにより起こる現象であると考えられている。
体内でアラキドン酸の代謝により産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)は、発熱応答に必須の脂質因子であることが知られているが、発熱時にPGE2がどのような仕組みで産生されるのかについて、完全には分かっていなかった。
副作用の少ない解熱剤や抗炎症剤の開発に期待
今回、研究グループは、発熱に関わるPGE2が、脳内マリファナ様物質として知られる「2-アラキドノイルグリセロール」(2-AG)の分解により産生されることを発見した。これまで、PGE2を始めとする炎症性脂質メディエーターの産生には、リン脂質を分解する酵素である細胞質型ホスホリパーゼA2α(cPLA2α)が関わっていると考えられていたが、遺伝子欠損マウスを用いて発熱応答および脳内脂質代謝物の解析を行ったところ、cPLA2αではなく、モノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)の働きで2-AGから産生されるPGE2が発熱応答に必要であることが明らかになったという。
同研究により、発熱というよく知られた生命現象に関わる新たな脂質代謝経路が明らかになった。今後、cPLA2αとMGLによる生理活性脂質産生経路が、さまざまな病態や生理機能においてどのように使い分けられているかを明らかにしていくことで、副作用の少ない解熱剤や抗炎症剤の開発が可能になることが期待できるとしている。
▼関連リンク
・東京大学大学院 医学系研究科 プレスリリース