腎障害マウスに腎臓の前駆細胞を移植、治療効果を検証
京都大学は7月22日、iPS細胞研究所(CiRA)の豊原敬文研究員、長船健二教授らの研究グループが、腎臓の再生医療に関する共同研究において、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した腎前駆細胞の移植により、マウスの急性腎障害(Acute Kidney Injury; AKI)による腎機能障害や腎組織障害が軽減することを発見したと発表した。この研究は、アステラス製薬株式会社との共同研究で行われ、研究成果は米科学雑誌「Stem Cells Translational Medicine」に7月21日付でオンライン公開されている。
画像はリリースより
AKIでは、処置を行った患者でも60%程度は死に至る。これまでの処置では、AKIにより受けた腎臓のダメージを軽減することはできておらず、ヒトiPS細胞を使った細胞移植が新しい治療の選択肢の1つとして期待されている。2015年2月には、イタリアの研究グループにより、薬剤によって急性腎障害を起こしたマウスに、ヒトiPS細胞から作製した腎臓細胞を尾静脈から注射し、治療効果があると報告された。また、既にOSR1とSIX2という2つのタンパク質を指標にすることで、腎臓の前駆細胞を見分けられることが明らかにされていた。
慢性腎臓病や慢性腎不全の治療に向けた研究も
研究グループはまず、ヒトiPS細胞に、腎前駆細胞の指標となるOSR1遺伝子の発現に伴いGFP(緑色蛍光タンパク質)が、 SIX2遺伝子の発現とともにtdTomato(赤色蛍光タンパク質)が発現する系を構築。この系を用いて緑と赤の蛍光を目印に、ヒトiPS細胞から腎前駆細胞へと分化誘導する方法を確立した。この方法で誘導した細胞を、マウスの後腎細胞と共培養や、あるいは免疫不全マウスの精巣周囲の脂肪内に移植したところ、いずれも尿細管様の管構造をつくり、腎臓の前駆細胞として機能することが明らかになったという。
次に、虚血再灌流により腎障害を引き起こしたマウスの腎被膜下に、この方法で作製した腎臓の前駆細胞を移植し、その効果を検証。その結果、腎機能の検査値である血中尿素窒素(BUN)値や血清クレアチニン値が、細胞を移植しなかったマウスと比べて顕著に低下していることが分かった。また腎臓の組織切片を観察したところ、尿細管の壊死や線維化など、腎臓が障害を受けた時に発生する現象についても、かなり小さく抑えられていたという。
研究グループは今後、今回の方法を活用した臨床応用の可能性を探りながら、慢性腎臓病(CKD)や慢性腎不全の治療に向けた研究も進める予定だとしている。
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・京都大学 研究成果