ドイツ・ケルン大学主導の国際共同プロジェクトに参画
国立がん研究センターは7月16日、愛知県がんセンターの研究グループとともに、ドイツのケルン大学が主導する16か国の研究機関からなる国際共同プロジェクトに参画し、難治性の高い肺がんである肺小細胞がん110例の全ゲノム解読を行ったと発表した。なお、研究成果に関する論文は、英科学誌「Nature」に発表されている。
肺がんはがん死因第1位であり、日本では年間に8万人弱の死をもたらす難治がん。肺がんの約15%を占める肺小細胞がんは特に難治性であり、効果の高い治療法の開発が求められている。しかし、肺小細胞がんは、ほとんどが進行がんとして発見されるため、ゲノム解析に適する手術摘出試料は稀だ。そこで、これまでに各国研究機関が集積してきた肺小細胞がん試料を集結して解析することにより、肺小細胞がんがどのようなゲノムの異常を蓄積し、発生するのかを明らかにしたという。
点変異以外のゲノム再構成によっても、がん抑制遺伝子が不活性化
これまでの研究で、肺小細胞がんでは、点変異により、TP53、RB1、CREBBPがん抑制遺伝子が不活性化していることは明らかになっていたが、今回の全ゲノムシークエンス解析により、点変異以外のゲノム再構成によっても、これらの遺伝子が不活性化されていることを明らかにした。異常の頻度は、TP53(100%)、RB1(93%)、CREBBP(15%)だったという。ゲノムの再構成の検出には、ゲノム全域にわたるシークエンス解析が必要だ。同研究の成果は、がんの本態解明にこのような全ゲノム解析が有効であることを示している。
また、TP73遺伝子では、スプライシング異常により、発がん推進型タンパク質が発現していることが知られていたが、その原因がイントロン領域のゲノム再構成によることが明らかにされた。TP73遺伝子の異常は13%の症例で認められたという。
さらに、NOTCH1-3遺伝子の不活性化変異が25%の症例で生じていることが明らかになった。NOTCH遺伝子群は、肺小細胞がん発生に対して、がん抑制的に機能していると考えられるという。
なお、既存の分子標的薬の標的となるキナーゼ遺伝子、BRAF、KIT、PIK3CA遺伝子の活性化変異が数%に存在することも再確認されている。
今回の研究は、各国のバイオバンク事業の有用性を示すとともに、得られたデータは、難治がんである肺小細胞がんの新たな治療・診断法の開発の基盤情報となるものである。特に、肺小細胞がんで高頻度に不活性化している遺伝子群が同定されたことから、合成致死の理論に基づいた治療法の開発が期待されると研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立がん研究センター プレスリリース