アルツハイマー病態におけるオートファジーの新たな役割を解明
東京医科歯科大学は7月14日、難治疾患研究所脳統合機能研究センター・神経病理学分野の岡澤均教授の研究グループが、生きた脳の中の神経細胞におけるオートファジーを観察する技術を世界で初めて開発し、アルツハイマー病態におけるオートファジーの新たな役割を解明したと発表した。同成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に7月14日付で掲載されている。
画像はリリースより
今回の研究は「神経細胞における誘導性オートファジーの有無」を明らかにすることを第一の目的とした。マクロオートファジーを特徴付けるオートファゴゾームのマーカー分子であるLC3から作製した融合蛍光タンパク質(LC3-EGFP)を脳内に発現させて、生きたマウスの脳内部で変化するオートファゴゾームを2光子顕微鏡で観察する方法を開発した。
これにより、脳における飢餓誘導性オートファジーが、神経細胞において実際に存在することを証明。さらに、マウス脳の同じ場所を継続的に観察することにより、脳内のオートファゴゾーム形成に概日リズム(circadian rhythm)があることを発見したという。
カロリー制限がアルツハイマー病を加速する可能性を示唆
さらにアルツハイマー病では、オートファジーが病態を抑制するのかそれとも進行させるのか、という特異的な問題点があったため、その点も調査。その結果、アルツハイマー病態では飢餓による誘導性オートファジーが亢進しているものの、エンドサイトーシス亢進によって細胞外から取り込んだベータアミロイドを十分に分解処理できず、細胞内にベータアミロイドを溜め込むこと、さらにはこの細胞内アミロイドの増加はアルツハイマー病で侵されやすい脳内の重要部位で起こることが明らかになったという。
また、細胞内にベータアミロイドが増加した神経細胞を詳細に観察すると、一部は細胞が膨張して破裂し、ベータアミロイドを周辺にまき散らす像も得られたという。これらの結果は、アルツハイマー病態に飢餓状態が重なることによって引き起こされる細胞内のベータアミロイドの増加が細胞死につながり、病態の悪化を加速する可能性を示している。
今日では、過度なカロリー摂取などの生活習慣がアルツハイマー病進行を早める要素であることが広く認められているが、脳内で細胞外のベータアミロイド濃度がある程度高まった後では、むしろ、カロリー制限によってオートファジーを過度に活性化することがアルツハイマー病態を悪化させるリスクとなることが、今回の研究成果から想定される。これは、食習慣を通じた認知症予防・治療を今後進める際に重要なポイントと考えられるとしている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース