昨年5月から7月にかけて同院で実施した新薬の第I相試験において、健康成人ボランティア1症例のナトリウム値が137mEq/L(基準値138~144mEq/L)と基準値から外れていたため、138mEq/Lに改ざんし、治験に参加させた。本来は除外すべき症例だが、治験への組み入れ率を高めるため、データを改ざんしたと見られる。
同院は、データ改ざんに関わった本人からの内部告発を受け、他大学の専門家や弁護士など3人からなる第三者調査委員会を設置し、調査を進めた。内部告発は、この1例に限らず、複数の治験についてデータ改ざんが行われたというもの。関係者によると、データ改ざんは、本人の独断ではなく組織的な指示に基づくものだったのかどうかについても、第三者調査委員会で調査が行われたという。
ただ、第三者調査委員会が調べた範囲では、調査対象となった全ての治験におけるデータ改ざんや組織的な指示について、これらを裏づける物的証拠は乏しかった。データ改ざんがあったと内部告発者が訴えた複数事例の中から、本人の証言と上司の証言が一致した1件についてのみ、不正があったと認めた。組織的な強制や指示については、あったとは認めなかった。第三者調査委員会は今年5月、これらの調査結果を報告書にまとめた。
今回の1例に限ると検査値の改ざん幅は小さいものの、その大小を問わず、データを改ざんし被験者を治験に組み入れることはGCP違反、プロトコール逸脱に該当し、患者や被験者の権利を尊重したヘルシンキ宣言にも反する行為だ。
具体的な薬剤名は開示されていないが、現在、第III相試験段階にある。データ改ざんを受け、第III相試験を中止し、第I相からやり直す必要があるのか、改ざん症例を含む第I相試験のデータはどのような扱いになるのか、現時点でははっきりしていない。
厚労省は、第一報を受け、より詳しい情報の提供を同院に求めているところで、それをもとに対応を判断したいとしている。また同院は、治験依頼者である製薬会社と、今後の対応について協議を続けているという。
過去の事例では約2年前、小林製薬が肥満改善薬として開発を進めていた一般用医薬品において、同社が治験を依頼したサイトサポート・インスティテュートが治験支援業務において不正記載を行ったことが判明。製造販売承認申請を取り下げる事態になった。
同院は、土本寛二病院長名で「皆さまの信頼を裏切ることとなり、心からお詫び申し上げる。あってはならないことであり、再発防止に向けて一層の努力を行っていく」と謝罪のコメントを出した。今後、再発防止策として、手順書の改訂や職員の再教育を実施するほか、アドホック管理委員会を設置し、関係者の意見の取りまとめ、臨床検査の実施、データの記録保管に関する手順書の策定などを行うとしている。
第三者調査委員会の報告書について、同院は「開示するかどうかを早急に検討する」としているが、同様の不正が二度と行われないようにする意味でも、報告書を開示し、詳細を明らかにすることが望まれる。