神経細胞群種を体系的かつ長期的に観測する手法を確立
科学技術振興機構(JST)は7月14日、JST戦略的創造研究推進事業において、カリフォルニア大学サンディエゴ校の小宮山尚樹アシスタント・プロフェッサー、牧野浩史博士らが、学習がどのようにマウス脳内の情報処理形態を変化させるのかを明らかにしたと発表した。本研究成果は、米科学誌「Nature Neuroscience」オンライン速報版に7月13日付けで公開されている。
画像はリリースより
私たちは日常の経験から、学習によって得られた先入観などによりものの見方などの知覚が大きく左右されることを知っている。しかし、学習によって脳内の信号伝達の仕組みがどのように変わるのか、またその動作原理に関する神経回路機構は分かっていなかった。
統合失調症などの精神疾患の発症機序の理解が深まることに期待
両研究者は、学習中の大脳視覚野における個々の神経回路素子の活動を、脳の深部まで観察可能な2光子顕微鏡を使用し体系的かつ長期的に観測。興奮性神経細胞や抑制性神経細胞を個別に観測できる遺伝子改変マウスを利用し、またトップダウン入力の起点となる高次脳領域で遺伝子を導入する手法を組み合わせ、それらの神経細胞の活動を大脳視覚野で観測したという。
その結果、脳内部モデルからの予測、期待または注意といった情報を伝えるとされるトップダウン入力を可視化できるようになり、学習を通じて大脳視覚野に対するトップダウン入力の影響が強まることが示された。また、外部世界からの情報処理に関わるとされるボトムアップ入力は、学習が進むにつれて次第に減少することも分かり、トップダウン入力とボトムアップ入力は非対称な変化を示したという。
次に、学習におけるトップダウン入力とボトムアップ入力という2つの情報処理機構の非対称な変化の仕組みを明らかにするため、さまざまな抑制性神経細胞の活動を個別に評価したところ、トップダウン入力を制御していると考えられる特定の抑制性神経細胞群の活動が下がることも分かった。これにより、トップダウン入力による大脳視覚野への影響がさらに高まるのではないかと考えられるという。
このような神経回路における情報処理機構の解明は、統合失調症などの精神疾患の発症機序を明らかにする上で重要な鍵となることが期待される。
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